【7回】ECを中心に広げる「ファンエコノミー」

ブランドEC

リテール業界に10年従事し、その後15年にわたり多くの企業においてEコマース参入・成長に関する戦略立案と施策実行を支援してきた筆者(株式会社 久 ブランドEC成長支援室 室長 立川哲夫)が、約20年の高成長期を経てEC業界およびECサイトを運営する企業が、初めて経験する成熟期に入った言えるこのタイミングで、ここ5年を振り返りつつ、2030年を見据えたEコマースの未来予測とEC経営の変革ポイントを解説していきます。


ECを中心に広げる「ファンエコノミー」

【第2回】のコラムでも提示しましたが、2026年を起点に今後5年間で、下記図のようにEC市場が社会インフラとして進化していく中で、EC市場拡大に影響を与えてきた楽天・Amazon・Yahoo!など巨大プラットフォームの活用が重要であることは間違いありません。しかし、ブランドを持つ各企業にとっては、そのプラットフォームは、販売チャネルの一つの手段となることを踏まえた上で、ブランド公式ECサイトを中心に置きながら、数年かけてビジネスモデルを変革し、自社独自の「ファンエコノミー」モデル構築の必要が高まると予測しています。

改めて、ECサイトの大きな特徴は、企業が持つブランドや商品(モノ)が、ECサイトで購入された後、購入者のもとへ直接「商品が届き、開封され、利用・体感が始まる」点にあります。この「ECの購入体験」を中心に据えながら、自社独自の経済圏やファンを増やしていくモデルを再定義していくことが求められます。
EC販売やポイントプログラムを起点に、顧客接点を増やす経済圏拡大モデルとしては、楽天やYahoo!のモデルが参考になるでしょう。


【楽天・Yahoo!のECを起点にした経済圏イメージ】

 

現在、楽天やYahoo!はEC販売だけでなく、旅行・銀行・証券などの金融サービス、決済・通信、さらには野球チーム運営などのスポーツ領域まで展開し、顧客IDやポイントを軸に巨大な経済圏を確立しています。両経済圏ともに、サービス拡大の過程では、「楽天市場」や「Yahoo!ショッピング(Yahoo!オークション)」の商品取引(モノ)による接点が基盤となってきたといえます。
海外に目を向けると、Amazonやアリババも同様に、スタート段階ではEC販売を起点に高頻度で顧客接点を持ち、その利便性を高める配送・決済・エンタメなどを拡充させながら経済圏を拡大し、動画配信・クラウド・AIなど関連サービスへと展開してきました。
これらの巨大プラットフォームの例は規模感が全く異なりますが、今後5年を視野に、ブランド公式ECを中心に成長を目指す上で参考になる要素があります。


マーケティングの概念として「ファンを増やす」「ファンマーケティング」という言葉がありますが、SNSを中心にするだけでは強い関係性を築ける時代ではなくなりつつあります。
SNSを含めたデジタル接点は、数年前のように爆発的にフォロワーを増やし、それを維持継続する事例が少なくなっています。また、デジタルマーケティングで短期間に獲得した顧客を継続的に保つことも難易度が高くなっています。

このような状況を踏まえると、自宅に商品(モノ)が届くという接点を持つ「EC購入体験」の重要性を見直す必要があります。購買後の体験までを含めたECサイト設計、購入後の関係性維持までを意識することで、ブランド公式ECを「ブランドコミュニケーションの場」の中心と位置づけ、ファンを増やすモデルへの再定義が必要です。


【ブランド公式ECを中心とした「ファンエコノミー」イメージ図】

上記の図のように「ブランド公式ECサイト=ブランドコミュニケーションの場」と捉え、店舗・リアルイベント・商品パッケージ・梱包材などのリアル接点と、SNS・LINE・デジタル広告などのデジタル接点を組み合わせることでファンを創出します。その上で、ECサイト経由のリピート購入により顧客エンゲージメント(信頼関係)を高め、図の右側にあるように「ファンによる発信・共有」を促すことで購入者や熱烈なファンを増やす循環を作っていきます。
また、ファンイベントへの参加や、SNSでの発信・投稿コンテンツ(UGC)を公式ECサイトに掲載することで、「ブランドコミュニケーションの場」を活性化させ、EC購入にもつなげていきます。

公式ECサイトや通信販売を起点にしながら、顧客接点とサービス領域を拡大する動きとしては、「アダストリアの and ST」や「ニトリの公式EC」などが挙げられます。これらは自社商品のEC販売だけでなく、他社も出品できるプラットフォームを構築し、品揃えの豊富さを実現することで顧客接点の拡大を図る動きをしています。また、「ジャパネットたかた」では、テレビ・ラジオ・折込チラシを中心としたモノの通信販売をベースに、下取り・取り付け・利用説明付きのスマホ販売など、サービスを付加させています。さらに「長崎スタジアムシティ」「ジャパネットクルーズ」の展開により、「コト・体験」領域へ拡張し、経済圏拡大(売上拡大)につなげています。

近年は「モノ」から「コト」への消費行動シフトが注目されていますが、顧客接点シェア拡大で先行する巨大ECプラットフォームやEC・通販大手のように、「商品販売(モノ)」を起点にファンとのつながり・サービス経済圏を拡大による事業成長を推進する「ファンエコノミー」モデルは、EC事業を持つ企業にとって重要な視点です。

これらの事例も参考にしながら、今このタイミングで、5年後を見据えて自社の企業規模・強みを確認しながら、ブランド公式ECを中心としたファン育成・事業拡大モデルの再定義を行っていただきたいです。

■筆者プロフィール
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
立川 哲夫(たつかわ てつお)

ECマーケティング×企業経営に精通したスペシャリスト
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。多様な業界・企業規模における経営課題を整理し、ビジネスモデルの構築、戦略立案、実行支援に携わる。特に、EC・O2O・デジタルマーケティング領域での専門性が高く、EC事業を起点にして企業のビジネス拡大を実現。

大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部として新規事業開発や事業拡大に従事し、企業のブランディングやマーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わり、企業変革期における業務推進や社内体制整備、人材育成にも関与し、総合的な経営支援スキルを磨く。5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。 その他、日経主催の講演会・ECセミナー講師、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などへの寄稿実績も多数。