リテール業界に10年従事し、その後15年にわたり多くの企業においてEコマース参入・成長に関する戦略立案と施策実行を支援してきた筆者(株式会社 久 ブランドEC成長支援室 室長 立川哲夫)が、約20年の高成長期を経てEC業界およびECサイトを運営する企業が、初めて経験する成熟期に入った言えるこのタイミングで、ここ5年を振り返りつつ、2030年を見据えたEコマースの未来予測とEC経営の変革ポイントを解説していきます。
BtoB ECは「便利な発注ツール」から「ファンを増やす」へ
すでに、さまざまな統計データからBtoB EC市場の拡大や成長の可能性が示されている通り、多くの企業がBtoB ECの導入・活用を視野に入れています。しかし、BtoB ECの導入を「DX」というキーワードの下に、単なる「業務効率化」や「既存取引先との利便性向上」といった「守りのDX」で終わらせるだけでは、中長期的な差別化要素や競争力は生まれません。
今後のBtoBビジネスにおいて不可欠となる「AIの台頭」「デジタルを活用した顧客接点の拡大」「企業ロイヤリティの向上」という3つの視点から、中長期的なBtoB ECの未来キーワードを予測し、その構築ステップを提示・解説していきます。
【第一段階】業務をシンプルに捉えてスモールスタート
多くのBtoB企業が使い続けているレガシーシステムは、DX推進の大きな足かせとなっています。無駄な手順や属人的なルールを残したまま、莫大なコストをかけて構築されたシステムは使い勝手が悪い面も顕在化し、結果として現場や取引先から不満が出るリスクを持った状況と言えます。
そのため、第一段階としてレガシーシステムへの対応が必要なBtoB ECにおいては、最初から100点を目指すのではなく、まずは業務プロセスをシンプルに整理することが重要です。既存システムと運営に必要な部分を絞ったデータ連携を行いながら、スモールスタートで段階的に機能を拡張していくアプローチが不可欠となります。
【BtoB ECの成長ステップ】

【第二段階】AIを活用した「コンテキスト・エンジニアリング」の実践
近未来のBtoB ECにおいて、変革要素となるのがAIの活用です。一気に到来したAI時代において台頭してきた「コンテキスト・エンジニアリング」というキーワードを提示します。
BtoBの商取引は、BtoCとは比較にならないほど複雑な「コンテキスト(背景)」を持っています。例えば、企業ごとの契約条件や掛け率、担当者の役職や権限、過去の購買履歴、所属業界などです。AIは、これらの膨大かつ複雑なコンテキストを理解し、単に「商品を並べる」だけでなく、顧客の状況に合わせた最適なタイミングでの提案や、潜在的なニーズの予測を可能にします。
AIを単なる効率化や自動化のツールとしてではなく、顧客一人ひとりのビジネス背景を読み解き、先回りして課題を解決するパートナーとしてECサイトに組み込むことが、これからの「攻めのBtoB EC」の鍵となります。
【第三段階】「取引先」から「ファン」へ昇華させる仕組み
BtoBにおいても、顧客はBtoCのような優れたCX(顧客体験)を求めています。今後のBtoB ECサイトが目指すべきは、単なる便利な発注ツールではなく、企業ブランドを体現し、顧客との関係を構築する「CXの接点」としての位置付けです。
ここで重要になるのが「カスタマーサクセス」の視点です。特にBtoBビジネスにおいては、製品を売って終わりにするのではなく、顧客が自らECサイトや購入商品を使いこなし「取引先企業内で自発的に活用」ができるようになるまで、システムを通じて伴走・サポートする仕組みが求められます。
例えば、FAQを充実させるだけでなく、ECサイトの機能を使いこなしてもらうようなレクチャー会の実施やECサイトと連動した顧客同士が活用事例を共有できるような「オンラインコミュニティ」を設置し、ノウハウの共有を促進する取り組みも有効です。
顧客がECサイトを通じた体験によって自社のビジネスの成長を実感したとき、「取引先」は「ファン」へと変わり、企業へのロイヤリティが醸成されていきます。
また、DXは「従業員満足度」というもう一つのロイヤリティを生む可能性もあります。BtoB EC化の進化は、顧客だけでなく、既存社員や今後入社する社員の満足度をも高めます。煩雑な手入力や事務作業から解放された営業担当者は、創出された時間を付加価値の高い提案型営業や顧客フォローに充てられるようになります。これがワークライフバランスの改善や仕事へのやりがいにつながり、結果として企業全体の成長を支える要素にもなります。
これからのBtoB ECの導入は、単なる「注文の手間を減らす便利な発注ツール」ではなく、AIの技術も活用しながら顧客のニーズを先読みし、「企業のファンを増やす」ビジネスパートナーにする視点が必要です。
「守りのDX」を超え、企業のファンを創出し、顧客と一緒に成長していくための「攻めのプラットフォーム」を構築していく視点を持ってBtoB ECの導入・活用に取組んでください。
■筆者プロフィール
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
立川 哲夫(たつかわ てつお)-278x300.jpg)
ECマーケティング×企業経営に精通したスペシャリスト
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。多様な業界・企業規模における経営課題を整理し、ビジネスモデルの構築、戦略立案、実行支援に携わる。特に、EC・O2O・デジタルマーケティング領域での専門性が高く、EC事業を起点にして企業のビジネス拡大を実現。大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部として新規事業開発や事業拡大に従事し、企業のブランディングやマーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わり、企業変革期における業務推進や社内体制整備、人材育成にも関与し、総合的な経営支援スキルを磨く。5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。 その他、日経主催の講演会・ECセミナー講師、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などへの寄稿実績も多数。