「EC戦略フレームワーク10選」⑩EC事業の成長領域 確認シート

ブランドEC フレームワーク

リテール業界に10年従事し、その後15年にわたり多くの企業においてEコマース参入・成長に関する戦略立案と施策実行を支援してきた筆者(株式会社 久 ブランドEC成長支援室 室長 立川哲夫)が、約20年の高成長期を経てEC業界およびECサイトを運営する企業が、初めて経験する成熟期に入ったと言えるこのタイミングで、ブランド公式EC(自社公式オンラインショップ)の成長戦略を再定義に役立つ「EC成長戦略フレームワーク」を提示・解説していきます。


【2026年度版】⑩EC事業の成長領域 確認シート

ここまでのフレームワークや確認シートの活用により、ブランド公式ECサイトで取り扱う商品を中心に、ブランド認知とファンの増加が実現していくと、一定のタイミングで成長率が鈍化していきます。現状の商品を基軸にブランドの「第一想起」となる「指名ワード検索推移」を確認しながら、一定のリピート購入顧客を確保できた段階で、新たな市場や需要を開拓する必要があります。次の成長を実現するためのフレームワークとして、「アンゾフの成長マトリックス」をベースにした次の確認シート活用をおすすめします。


【EC事業の成長領域 確認シート

このフレームワークは、市場(顧客)とカテゴリー・商品という2つの視点を「既存」と「新規」で組み合わせ、成長戦略を明確化するものです。

最もリスクが低いのは、既存市場における既存商品のシェアを高める戦略です。ただし、一定のシェアを確保した段階では、①「水平展開」を行います既存顧客に対して新しいカテゴリーや新商品を開発・投入し、事業拡大を狙う作戦です。これはEC成長企業でも多く見られるパターンです。
たとえば、家具を中心に販売していた企業が、寝具・インテリア雑貨・アパレルなどのカテゴリーを追加し、総合化によって売上拡大を図る動きが挙げられます。ただし、カテゴリー追加により在庫管理方法が異なるケースも多く、経営効率が低下する可能性があるため注意が必要です。

次の成長戦略は、②「垂直展開」です。既存商品をベースに新たな市場を開拓する戦略であり、EC事業の場合、楽天市場・Amazon・TikTokショップなど新たな販路への展開もこの分類に近い取り組みです。また、同様の機能を活かして新しい属性・客層向けにアレンジし、領域拡大を狙うケースもあります。
たとえば、女性向け化粧水をベースに男性用へ展開するなどが該当します。この場合はプロモーションコストとのバランスを慎重に評価しながら、拡大戦略を描いていくことが重要です。

EC事業の成長戦略は、基本的に①「水平展開」と②「垂直展開」が中心となりますが、EC販売の特性を活かし、一気に新商品を新市場へ投入する戦略も可能です。
たとえば、「ボタニカルシャンプー」で急成長を遂げたI-ne社は、「ボタニカル」という新カテゴリーをEC販売をベースに創出しました。また、ジャパネットたかたが展開する「ジャパネットクルーズ(クルーズ船ツアー)」もこの領域に近い戦略です。これらの戦略は、新規顧客との接点を一気に拡大し、売上成長につながる可能性を秘めています。自社が持つ顧客対応力やECでの販売ノウハウといった基盤があれば、十分にチャレンジする価値があります。

この「EC事業の成長領域確認シート」をもとに新たな領域へ拡大する際は、これまでの連載で紹介した「バリュープロポジション確認シート」を再確認し、顧客に選ばれる理由(価値)を明確化します。 



次に、モデル店・競合店 確認シートを活用し、実際に比較された時に優位性をどのように保っていくか整理していきます。

これらのフレームワークで戦略・戦術の要素が明確になった段階で、ブランドEC7つの成長ステージ確認シートに沿って、着実にステップを踏んで成長を実現していきます。

ここまで、ブランドEC成長戦略フレームワーク10選の内容とその活用ポイントを解説してきました。

EC市場の拡大は続いているものの、成長率は鈍化し、現在は成熟期に入ったといえます。また、コスト増加・AIの民主化・人口動態の変化などにより、数年先を見据えた事業モデルの再定義が求められています。  

EC未来予測キーワードコラムでも触れているように、これからのECは「売るためのサイト」から「ブランディングの中心」へとシフトしていく必要があります。
このシフトを実現するためには、奇抜な手法ではなく、多くの成長企業が成果を上げてきたフレームワークを活用いただき、限られた投資やリソースで効率的に成長を加速させていくことが重要となります。

■筆者プロフィール
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
立川 哲夫(たつかわ てつお)

ECマーケティング×企業経営に精通したスペシャリスト
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。多様な業界・企業規模における経営課題を整理し、ビジネスモデルの構築、戦略立案、実行支援に携わる。特に、EC・O2O・デジタルマーケティング領域での専門性が高く、EC事業を起点にして企業のビジネス拡大を実現。

大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部として新規事業開発や事業拡大に従事し、企業のブランディングやマーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わり、企業変革期における業務推進や社内体制整備、人材育成にも関与し、総合的な経営支援スキルを磨く。5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。 その他、日経主催の講演会・ECセミナー講師、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などへの寄稿実績も多数。