
リテール業界に10年従事し、その後15年にわたり多くの企業においてEコマース参入・成長に関する戦略立案と施策実行を支援してきた筆者(株式会社 久 ブランドEC成長支援室 室長 立川哲夫)が、約20年の高成長期を経てEC業界およびECサイトを運営する企業が、初めて経験する成熟期に入った言えるこのタイミングで、ここ5年を振り返りつつ、2030年を見据えたEコマースの未来予測とEC経営の変革ポイントを解説していきます。
今回は、2030年を視野に置いた「EC未来予測キーワード」を提示しながら、企業の戦略見直しや成長に向けたビジネスモデル転換に必要な施策を解説していきます。
2030年へ向けて。EC未来予測7つのキーワード

■1つ目のキーワード:EC市場は
「成長期~成熟期」から「社会インフラとして進化」へ
【物販EC市場規模成長率(前年比)】
出典:経産省統計資料より算出
【宅配大手3社の宅配便取扱個数推移】

(出展:各社の発表資料より集計)ヤマトホールディングス株式会社(宅急便)、SGホールディングス株式会社(飛脚便)、日本郵便株式会社(ゆうパック)
EC市場が形成されてから約20年続いた高成長期は終わり、ここ2年の成長率は5%を下回り、宅配便取扱個数の推移から見ても成長期から成熟期に入ったと言えます。
一方で物販EC市場規模は15兆円を超え、すでに社会インフラとなっているスーパーやコンビニと同等に日常的に利用される市場規模となり、日々の生活を支える存在になっています。身近な例では、インターネットやスマートフォンが「あると便利。必要な時に利用する。」から「無いと困る。生活を豊かにする。」存在へ変化したのに近い状況です。
【主要業態の市場規模推移】 
出典:経産省資料より当社が作成
ECは「社会インフラ」として、便利で豊かな生活を支えつつ、多様な選択肢と時間・場所を問わない購買体験を提供し、企業・ブランドと消費者をつなぐ「社会インフラとして進化」していくと予測します。
■2つ目のキーワード:EC店舗運営は
「EC多店舗運営」から「ブランド公式ECを中心にした運営」へ
ここ5年は、公式オンラインショップ(D2C)を持ちながら、Amazonや楽天市場をはじめとするモール型や通信キャリア・SNS連携の販売チャネルへ出店・出品し、EC多店舗展開で売上拡大を図る企業が多くありました。
ここ5年主流となっている「EC多店舗運営」イメージ図

2030年へ向けた「ブランド公式ECサイト中心」のイメージ図

今後もチャネル拡大を進める流れは続きますが、各企業が自社でAI活用が日常化することも踏まえて、顧客データやマーケティングデータを自社で保有・蓄積し、多様化する顧客接点を捉えて継続的な関係性を維持し「ブランドロイヤリティ」を高める活動が重要になります。そのため「公式オンラインショップ=ブランド公式ECサイトを中心とした」運営が主流になると予測します。
■3つ目のキーワード:ECサイトは
「売上を増やす場」から「ブランドコミュニケーションの場」へ
ECは、インターネット環境を通してオンライン上の販売サイトで販売し売上を増やしていく役割を担ってきました。全国のさまざまな企業にとって、新しい顧客と出会い商品を売ることで売上を増やす機会を作ってきました。
ブランド公式ECサイトを起点に、ファンの創出とファンによる共有のイメージ図

この「売る場」であることには変わりは無いですが、ECの大きな特徴は、企業が持つブランドや商品が、サイトで購入した後に購入者の元へ直接「商品が届き、開封、利用・体感を開始する」点にあります。この購買後の体験までを含めて、ECサイトや購入体験、購入後の関係性維持を設計することで、ECは「ブランドコミュニケーションの場」へと位置づけが変わっていきます。これからはコミュニケーション設計とファンの創出・ファンによる共有・ファンがファンを増やしてくれる施策と連動させたECサイト運営が重要度が増すと予測します。
ここまでは、下記3つのEC未来予測キーワードを提示しながら解説してきました。
| 1.EC市場は社会インフラへ進化へ – 成長率鈍化も、生活に不可欠な存在に。2.運営はブランド公式EC中心へ – 顧客データを自社で蓄積・活用。3.ECサイトはブランドコミュニケーションの場へ – 購入後体験まで設計し、ファン化を促進。 |
「EC事業」で成長を牽引するという従来の枠組みから、2030年を見据えた 企業の継続成長にとって最重要テーマとなる「ブランディング」の中心的な役割・機能へシフトさせていくために「戦略再定義と施策転換」が不可欠となることを理解いただければと思います。
【第3回】のコラムでは、残りの4~7のキーワードを解説していきます。
■筆者プロフィール
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
立川 哲夫(たつかわ てつお)
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ECマーケティング×企業経営に精通したスペシャリスト
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。多様な業界・企業規模における経営課題を整理し、ビジネスモデルの構築、戦略立案、実行支援に携わる。特に、EC・O2O・デジタルマーケティング領域での専門性が高く、EC事業を起点にして企業のビジネス拡大を実現。
大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部として新規事業開発や事業拡大に従事し、企業のブランディングやマーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わり、企業変革期における業務推進や社内体制整備、人材育成にも関与し、総合的な経営支援スキルを磨く。
5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。 その他、日経主催の講演会・ECセミナー講師、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などへの寄稿実績も多数。