【6回】ブランドEC評価は「CBBEモデル」の活用へ

リテール業界に10年従事し、その後15年にわたり多くの企業においてEコマース参入・成長に関する戦略立案と施策実行を支援してきた筆者(株式会社 久 ブランドEC成長支援室 室長 立川哲夫)が、約20年の高成長期を経てEC業界およびECサイトを運営する企業が、初めて経験する成熟期に入った言えるこのタイミングで、ここ5年を振り返りつつ、2030年を見据えたEコマースの未来予測とEC経営の変革ポイントを解説していきます。


ブランドEC評価は「CBBEモデル」の活用へ

前回の【第5回】コラムにて、「売るためのデータから蓄積型のブランドスコアへシフトする」と予測・提言いたしました。ここ10年ほどのEC市場は概ね成長期を過ごしてきました。その中で、消費者ニーズに合った商品を持ち、販売チャネルを拡大すれば売上を伸ばせる確率が高い状況にありました。ECマーケティングで重視される分析データや指標は「売るため」「売上を伸ばすため」を軸に、計画・実行・検証・改善のマーケティング活動を行う形で売上を拡大してきたと言えます。
これからは、EC事業という領域を拡大した視点で企業・ブランド全体の成長戦略の中で、ブランド公式ECサイトを中心に置き、当社が提唱する「ブランドスコアマーケティング(ブランド資産)」を軸に評価・数値化していく必要があります。

一方で、ブランドの価値は見えにくく、評価しにくい面があることから「ブランド施策ロードマップ」「評価基準」「計測数値」が必要です。売上や利益に関連する指標とは異なり、ブランド「認知度は上がったが、売上には繋がっていない」「商品は良いはずなのに、競合に勝てない」。こうした悩みの多くは、ブランド構築のプロセスを分解できていないことに起因します。

ブランドは短期間に出来上がるものではありません。家を建てるのに土台から順に積み上げていくように、ブランドにも「正しい構築順序」が存在します。その設計図として世界中のマーケターに信頼されているのが、ケビン・レーン・ケラー(Kevin Lane Keller)教授が提唱した「CBBEモデル(Customer-Based Brand Equity:顧客ベースのブランド・エクイティ)」です。

■CBBEモデル
ケビン・レーン・ケラー氏は、ブランド・エクイティの測定、ブランド拡張、ブランドアーキテクチャなど、幅広い研究を展開し、NIKE、Disney、Intel、P&Gなどの世界的ブランド構築にも影響を与えています。
・著書『Strategic Brand Management』は、ブランド構築・測定・管理の「バイブル」と呼ばれる教科書で、最新は第5版(2020年)
・『Marketing Management』(Philip Kotlerとの共著)は、世界で最も採用されているMBAマーケティング教科書で、現在は第16版(2022年)が刊行

「CBBEモデル」は、ブランド価値を顧客視点で捉えるフレームワークであり、ブランド構築を4つの階層と6つの要素で説明する「ブランド・レゾナンス・ピラミッド」として開発・提唱されています。このモデルの最大の特徴は、曖昧だった「ブランディング」という概念を、「顧客の頭の中にどの順番で、何を植え付けるべきか」というロジックに落とし込んだ点にあります。

【CBEEモデル:ブランド・レゾナンス・ピラミッド】

 

ブランド構築のステップ

ここからは、ブランド構築のステップについて解説していきます。

■レベル1:ブランドへの認知(Brand Identity)
ピラミッドの土台となるのが、「ブランド認知(Identity)」です。ここでの目的は、顧客にブランドを認識してもらうことですが、単に「名前を知っている」だけでは不十分です。

要素:ブランドの知名度(Salience:突出性)
ケラーはこの要素を「Salience(セイリエンス)」、つまり「突出性」と呼びました。
例えば「喉が渇いた」と思った瞬間に特定の商品名が思い浮かぶかどうか。また、スーパーの棚で無数の商品が並ぶ中から瞬時にそのブランドを見つけ出せるか。これがブランドの「幅(どれだけ広い場面で)」「深さ(どれだけ強く)」を示します。
現在のデジタルマーケティングでは、リターゲティング広告などで接触回数を増やすことは容易になりました。しかし、CBBEモデルで問われるのは「購買意思決定の瞬間に第一想起されるか」という点です。  「このブランドを知っていますか?」という質問に対し、「名前は聞いたことがある」ではなく、「○○といえばこのブランド」と即答される状態。まずはこの土台が盤石でなければ、ブランドとして選ばれ続けることはできません。


■レベル2:ブランドへの意味(Brand Meaning)
認知という土台ができたら、次はそのブランドが「何であるか」という意味づけを行います。
ここは左脳的な「機能」と、右脳的な「イメージ」の2つのブロックで構成されます。デジタルマーケティングやブランド公式サイトにおいて、この段階に評価は「指名検索(指名ワード)」の増加として現れます。

要素1:性能・機能(Performance)
これは製品・サービスの機能的側面です。「壊れにくい」「味が美味しい」「発送が早い」「価格が手頃である」といった、物理的かつ実利的な価値です。
多くの日本企業は、ものづくりへのこだわりから、この「性能」を磨くことに全力を注ぎます。もちろん、性能は競争力の源泉ですが、それだけでは「良い商品」止まりであり、「強いブランド」にはなり得ません。機能は模倣されやすく、価格競争に巻き込まれやすい側面を持っているからです。

要素2:イメージ(Imagery)
そこで重要になるのが、感情的・象徴的側面である「イメージ(印象)」です。
「このブランドを使っている人はおしゃれだ」「環境に配慮している」「革新的である」といった、抽象的な連想です。例えば、同じコーヒーであっても、機能(カフェイン摂取など)は同じですが、スターバックスを選ぶか、缶コーヒーを選ぶかで、顧客が消費している「意味」は異なります。前者は「サードプレイスでの体験」を、後者は「手軽なリフレッシュ」を消費しています。顧客への確認として「このブランドはどんな特徴やイメージを持っているか?」になります。ここで形成された「独自の連想」こそが、競合との差別化要因となります。性能とイメージの両輪が噛み合ったとき、ブランドは初めて固有の「意味」を持ちます。


■レベル3:ブランドへの反応(Brand Response)
ブランドの意味が伝わった後、顧客はどう反応するでしょうか。第3階層は、顧客の内面で起こる反応の段階です。ここも「理性」と「感情」の2つに分かれます。

要素1:判断(Judgments)
これは顧客による理性的な評価です。
「この品質は信頼できるか?」「私のニーズに適しているか?」「他社製品より優れているか?」顧客は、第2階層で提示された「性能」や「イメージ」を、自分の価値観や過去の経験と照らし合わせて評価します。ここで「信頼性(Credibility)」や「専門性(Expertise)」が認められなければ、購入には至りません。

要素2:感情(Feelings)
一方で、人は理屈だけで動くわけではありません。ブランドに触れたときに湧き上がる感情的反応も重要です。
「ワクワクする(興奮)」「ほっとする(安心)」「誇らしい(社会的承認)」。例えば、高級時計や高級車は、機能的な判断以上に、「これを持つことで得られる優越感や自尊心」という感情(Feelings)に強く訴えかけます。
顧客への確認事項は「このブランドをどう感じるか?」です。「品質は良いと認める(判断)が、なんとなく好きになれない(感情)」というケースは多々あります。判断と感情の両面でポジティブな反応を引き出し、顧客の心と頭の両方を満たすことが、次の最終段階へ進むための条件です。


■レベル4:ブランドとの関係(
Brand Relationship
ピラミッドの頂点に位置するのが「共鳴(Resonance)」です。これがブランディングのゴールであり、到達には時間や体験の蓄積の量が関わる領域です。

要素:レゾナンス(Resonance)
レゾナンスとは、顧客とブランドが心理的に一体化し、互いに共鳴・共感し合っている状態を指します。顧客への確認事項は「このブランドとどれだけ深く関わっているか?」です。

ケラーは、この共鳴をさらに4つのレベルで説明しています。
①行動的ロイヤルティ(Behavioral Loyalty): 繰り返し購入すること。他社がセールをしていても、浮気せずにこのブランドを選ぶ状態です。
②愛着(Attitudinal Attachment): 単に「便利だから買う」を超え、「このブランドが好きだ」「なくてはならない」という特別な愛着を持っている状態です。
③コミュニティ意識(Sense of Community): そのブランドを使う他のユーザーに対しても親近感を抱く状態です。Appleユーザーやハーレーダビッドソンのオーナー同士の連帯感などがこれに当たります。
④積極的関与(Active Engagement): 購入するだけでなく、SNSで自発的に推奨したり、ファンサイト・ファンミーティングを運営したり、顧客が「アンバサダー(伝道師)」へと進化した状態と言えます。

多くのブランド保有企業が目指すべきファンの育成・LTV(顧客生涯価値)の最大化は、この「レゾナンス」の領域において実現すると言えます。


ブランド構築のステップとECサイト評価例

 

(まとめ)
ここまで、CBBEモデル(ブランド・レゾナンス・ピラミッド)について解説してきました。冒頭でも述べたように、これからのECマーケティングは「売上を伸ばす」から、ブランド公式ECサイトを中心に据え、当社が提唱する「ブランドスコア(ブランド資産評価)」を軸に、評価・数値化が必須となります。ブランドスコアをベースにブランド戦略の修正・マーケティング施策における「ボトルネック」を発見し、改善活動を行うことでブランド力が向上することで結果としてECサイト経由の売上が伸びていく状況が生まれます。 

このピラミッドの活用例として、 認知はあるが売れない場合: レベル2の「意味」が弱い可能性があります。名前は知られているが、「何が良いのか(性能)」「どんな世界観なのか(イメージ)」が伝わっていない可能性があります。商品は良いと評価されるがリピートされない場合: レベル3の「感情」やレベル4への橋渡しが不足しています。機能的な満足(判断)はあっても、情緒的なつながり(感情)や、顧客同士のつながり(コミュニティ)を提供できていない可能性があります。
活用のポイントは「下のレベル(段階)を飛ばして上のレベルには行けない」という視点です。認知がないのにロイヤルティは生まれません。機能的な信頼がないのに感情的な愛着は生まれません。ブランドEC成長において上手くいかない多くの事例は、土台(認知や機能的価値)が弱い状態で、いきなり頂点の「共感」や「コミュニティ」を作ろうとして空回りしているケースです。  

「CBBEモデル」の活用により、ブランド公式ECサイトを中心としたブランドスコアを数値化し、「今、ピラミッドのどのレベルを強化すべきか」を客観的に評価・改善する活動が主流になると考えられます。この前提のもとで、ぜひ本モデルの活用をご検討ください。

 

■筆者プロフィール
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
立川 哲夫(たつかわ てつお)

ECマーケティング×企業経営に精通したスペシャリスト
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。多様な業界・企業規模における経営課題を整理し、ビジネスモデルの構築、戦略立案、実行支援に携わる。特に、EC・O2O・デジタルマーケティング領域での専門性が高く、EC事業を起点にして企業のビジネス拡大を実現。

大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部として新規事業開発や事業拡大に従事し、企業のブランディングやマーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わり、企業変革期における業務推進や社内体制整備、人材育成にも関与し、総合的な経営支援スキルを磨く。5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。 その他、日経主催の講演会・ECセミナー講師、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などへの寄稿実績も多数。