
リテール業界に10年従事し、その後15年にわたり多くの企業においてEコマース参入・成長に関する戦略立案と施策実行を支援してきた筆者(株式会社 久 ブランドEC成長支援室 室長 立川哲夫)が、約20年の高成長期を経てEC業界およびECサイトを運営する企業が、初めて経験する成熟期に入ったと言えるこのタイミングで、ブランド公式EC(自社公式オンラインショップ)の成長戦略を再定義に役立つ「EC成長戦略フレームワーク」を提示・解説していきます。
【2026年度版】モデル店・競合店 確認シート
ECサイトで商品を探して購入検討している人の多くは、購入前に類似商品やサービスを提供する複数のサイトを比較・検討したうえで購買を決定します。特に初めて購入する場合は、比較・検討の行動が顕著になります。その比較・検討段階で自社の優位性を理解してもらい、購入につなげるためには、モデルとする店舗や競合店舗の状況を定期的に確認しておく必要があります。本コラムでは、モデル店・競合店の状況を整理・把握するためのフレームワークを2つ提示しますので、ぜひ活用してください。
1.「誰に・何を・どのように+4P」確認シートの活用

まずは自社および確認対象となる競合店舗を2店程度選定し、STP分析(S: Segmentation=市場の細分化、T: Targeting=ターゲット選定、P: Positioning=ポジショニング)をベースに整理します。確認ポイントは次の3点です。
① 誰に(ターゲット)
② 何を(届ける価値・コンセプト)
③ どのように(届け方・購入体験)
「① 誰に」は、ECサイト上で見える範囲の年代、職業、ライフスタイルなどを想定したペルソナ的視点でターゲットを整理します。
「② 何を」は、ECサイトのトップページ上部などに掲示されている、そのサイトが購入者に届けたい価値やコンセプト、実現したいことを確認します。
「③ どのように」は、オンライン注文から指定場所への配送、開封・使用開始に至る一連の購入体験を確認するものです。代表商品を実際に購入して、段ボール箱や同梱物、購入後のメール・DMフォローなども含めて体験をチェックすると実態が見えます。
「誰に・何を・どのように」を整理すると同時に、マーケティング戦略でよく使われる「4P」フレームワークも活用してモデル店・競合店を分析します。
④ Product(商品)
⑤ Price(価格)
⑥ Place(チャネル・流通)
⑦ Promotion(販促)
④〜⑦の観点での具体的な確認ポイントは次の通りです。
④ Product(商品)
サイト上で目立っている、メインで販売している商品の名称、機能、品質・デザイン、認知度(ブランド力)、販売実績など、消費者視点で特徴的な要素を抽出します。
⑤ Price(価格)
主力商品の価格帯や、価格訴求商品(セール品など)の価格を確認します。割引・キャンペーンの頻度や内容、支払い方法・支払い条件も調べます。
⑥ Place(チャネル・流通)
どのチャネルで主に販売しているか(自社公式、モール(楽天市場、Amazon など)、SNS系チャネル(TikTokショップ等))を確認します。加えて、独自アプリの有無、配送・物流戦略、在庫の持ち方、実店舗連携(O2O)など確認できる範囲で把握します。
⑦ Promotion(販促)
Google検索やSEOでの露出、SNS広告、モール内広告、PR・インフルエンサー施策、顧客コミュニケーション(メルマガ、LINE、コールセンター等)の運用状況を確認します。
これらの情報をフレームワークに整理することで、自社の強みと、消費者が比較対象とする店舗との「差別化=選ばれる理由」が明確になります。関係者で共通認識を持つことで、施策の一貫性が高まり、効果的な実行と検証が可能になります。
2.品揃え(MD)確認シートの活用
次に活用してほしいのが、商品分類(ジャンル別)の品揃えを「価格帯別×アイテム数」で自社とモデル店・競合店の比較分析を行うシートです。

商品分類(ジャンル)は、自社の主力または準主力の分類を2〜3ジャンル程度選定します。例えば家具・インテリアであれば、ダイニングテーブル(2人掛け)、ダイニングテーブル(4人掛け)など3つ程度を選び、その条件で確認します。販売アイテム数は調査対象サイトから把握しますが、重要なのは「消費者の予算感(価格帯)」ごとのアイテム数を確認することです。価格帯はブランドの立ち位置や戦略に大きく影響します。極端に言えば、同じ分類でも価格帯が異なれば、別の業態・店舗と見なされることもあります。
シートに設定する価格帯は、消費者が購入を迷ったり決定したりする際の心理的な境界線の目安として想定してください。この価格帯に沿ってアイテム数を確認すると、自社と競合の品揃えの差が明確になります。
差に対する対処法の例は以下の通りです。
自社と競合が同一価格帯で競合している場合
① 同じ価格帯で競合の1.5倍〜2倍程度のアイテム数を揃える。
② 同一品質でワンランク下の価格帯にアイテムを追加する。
自社も競合も空白の価格帯がある場合
① ワンランク上のプレミアム商品を追加して収益向上を狙う。
② 最下限の安価な戦略商品を追加して集客を狙う。
いずれの場合も、商品分類別×価格帯のシートを活用することで、売上や競合対策に直結する品揃えを、感覚に頼らず戦略的かつ意図的に設計・実行できます。
以上、ECサイト販売におけるモデル店・競合店を把握するための「誰に・何を・どのように+4P」フレームワークと、品揃え(MD)確認シートを提示・解説しました。ECは実店舗に比べ「比較・検討」がされやすい特性があります。定期的に本シートを用いて調査・分析を行い、企画や施策立案に役立ててください。
■筆者プロフィール
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
立川 哲夫(たつかわ てつお)
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ECマーケティング×企業経営に精通したスペシャリスト
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。多様な業界・企業規模における経営課題を整理し、ビジネスモデルの構築、戦略立案、実行支援に携わる。特に、EC・O2O・デジタルマーケティング領域での専門性が高く、EC事業を起点にして企業のビジネス拡大を実現。
大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部として新規事業開発や事業拡大に従事し、企業のブランディングやマーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わり、企業変革期における業務推進や社内体制整備、人材育成にも関与し、総合的な経営支援スキルを磨く。5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。 その他、日経主催の講演会・ECセミナー講師、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などへの寄稿実績も多数。