
リテール業界に10年従事し、その後15年にわたり多くの企業においてEコマース参入・成長に関する戦略立案と施策実行を支援してきた筆者(株式会社 久 ブランドEC成長支援室 室長 立川哲夫)が、約20年の高成長期を経てEC業界およびECサイトを運営する企業が、初めて経験する成熟期に入ったと言えるこのタイミングで、ブランド公式EC(自社公式オンラインショップ)の成長戦略を再定義に役立つ「EC成長戦略フレームワーク」を提示・解説していきます。
【2026年度版】7つの成長ステージ確認シート
ECサイト販売で成長を実現している企業には共通の特徴や法則があります。そのひとつが、成長のステージを順に通過していくことです。特にEC事業の立ち上げ期や急成長を目指す段階では、段階的に着実にステップを踏むことが重要です。今回は、成長ステージを7つに整理したフレームワークを提示し、各ステージでのポイントを解説します。
【7つのステージで月商レンジを突破していくイメージ図】

この成長ステージが重要な理由は、例えば、商品力や商品の魅力・価値が伝わる商品ページが整って段階で、③の費用をかけた広告を投下しても想定したような売上が発生しなく、その時点で実績も作れなくなってしまいます。新規参入する企業の他にも、売上の壁が突破しきれない企業、新しい商品を投入して更なる成長を目指したい企業は、まずこの成長ステージフレームワークを確認しながら、その商品やカテゴリがどの段階にいて、次の打ち手に何が必要かを確認ください。
成長のステージを3つの月商レンジも踏まえながら解説していきます。
Ⅰ.月商100万円突破レンジ
Ⅱ.月商500万円突破レンジ
Ⅲ.月商1,000万円突破レンジ
【7つの成長ステージ確認シート】

①一番商品の設定を行います。
まずは月商100万円突破モデルを作ります。特定のカテゴリを決め、そのカテゴリ内で他社の類似商品と比べて「ダントツ一番」になれる一品(=一番商品)を設定します。多くの場合、自社の強みとなる実績や評価の高い商品が候補になります。カテゴリは「家具」のような大分類ではなく、「ソファ」「ダイニングテーブル」などの中分類、さらに「ソファ 2人掛け」のような小分類に絞り、必要に応じてテイスト・価格・機能で限定していきます。絞り込むことで、次の段階(商品ページ作り、集客)に限られた労力と予算で成果を出しやすくなります。
次のステージは、②購入率の高い商品ページ作りです。
①で設定した一番商品に特化して商品ページを作り込みます。PC版では多少長くなっても、商品の特徴や選ばれる理由、素材、製造過程、開発背景、詳細なサイズ、ギフト対応、返品・返金対応、保証・アフターサービスなど、購入判断に必要な情報を漏れなく盛り込みます。スマホ版は画像や横スライドを活用し、画像内に説明文を入れるなどして情報を伝えます。分析タグやヒートマップ等のツールを導入してユーザー行動を計測し、目標の購入率に到達するまで継続的に改善します。この段階で「売れる商品ページモデル」が確立されます。
次のステージは、③の一番商品ページに集中的に販促・集客をします。
②で目標の購入率が確保できたら、リスティングやSNS広告(meta広告等)など、効果検証がしやすい有料広告に投資して一番商品ページへ誘導します。新規獲得コストや広告経由の購入率を確認しながら、商品ページと広告クリエイティブを改善して成功モデルを作り上げます。
次のステージは、④の一番商品からリピートするモデル作りです。
①~③のステージで一番商品にて月商100万円突破モデルが構築できてきます。このベースが出来上がった段階で、一番商品の購入者に次にリピート購入する流れを作ります。もちろん一番商品と同じ商品を2回目のリピート購入してもらう施策でも良いですが、可能であれば一番商品を購入した方へ、別の体験・消費してもらいながら、利益にも貢献するような「F2アイテム(2回目購入商品)」を設定し、その商品をメール・同梱物・SNSなどの接点を持ちながら誘導することで、ブランドやサイト自体のファンへ繋げられていきます。同時にF2転換率をデータで計測しながら目標に対しての差分を確認・改善の流れを作っていきます。
次のステージは、⑤の主力商品を5個作るです。
このステージは、月商500万円突破を目指すために、1カテゴリ内で主力商品を最低5個作ることを目標とします。5商品を集中的に管理し、販売計画・在庫確保・商品ページのデータ分析・購入顧客分析を行います。基本的にはEC専用のロングセラーを狙います。ECはリアル店舗程、シーズン毎や毎年新しい商品を投入しなくても販売実績やレビューの蓄積によって売上が伸びていく傾向もあります。EC専用商品としてマイナーチェンジやカラーバリエーションの追加でラインナップを充実させます。
次のステージは、⑥の併売商品で購入単価UPを行います。
主力商品の販売データを分析し、同時購入されやすい併売商品を特定して品揃えに追加します。主力商品ページでのレコメンド表示や、レコメンドツールを用いて購入直前に推奨することで平均購入単価(AOV)を引き上げます。併売商品は比較的単価を抑えつつ、購入者に新たな発見や体験を提供し、次回購入につながる商品を選定します。
最後のステージは、⑦新しいカテゴリを付加していきます。
このステージで月商1000万円突破を目指していきます。①~⑥の取組みを新しい商品分類(カテゴリ)を付加していきます。その時には市場が大きく競合が多いカテゴリでなく、①~⑥に近いカテゴリに横展開していくことが売上と収益を確保していくポイントになります。例えば「ソファ 2人掛け」から「ソファ リクライニング」などのイメージです。
これら7つの成長ステージに沿って次の成長を目指す場合は、①に戻って同じプロセスを繰り返します。本フレームワークに従って段階的に取り組むことが成長実現のポイントです。提示したシートを活用し、最短での成長にお役立てください。
■筆者プロフィール
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
立川 哲夫(たつかわ てつお)
-278x300.jpg)
ECマーケティング×企業経営に精通したスペシャリスト
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。多様な業界・企業規模における経営課題を整理し、ビジネスモデルの構築、戦略立案、実行支援に携わる。特に、EC・O2O・デジタルマーケティング領域での専門性が高く、EC事業を起点にして企業のビジネス拡大を実現。
大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部として新規事業開発や事業拡大に従事し、企業のブランディングやマーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わり、企業変革期における業務推進や社内体制整備、人材育成にも関与し、総合的な経営支援スキルを磨く。5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。 その他、日経主催の講演会・ECセミナー講師、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などへの寄稿実績も多数。