
リテール業界に10年従事し、その後15年にわたり多くの企業においてEコマース参入・成長に関する戦略立案と施策実行を支援してきた筆者(株式会社 久 ブランドEC成長支援室 室長 立川哲夫)が、約20年の高成長期を経てEC業界およびECサイトを運営する企業が、初めて経験する成熟期に入ったと言えるこのタイミングで、ブランド公式EC(自社公式オンラインショップ)の成長戦略を再定義に役立つ「EC成長戦略フレームワーク」を提示・解説していきます。
【2026年度版】EC専用MD確認シート
EC販売で継続的な売上を伸ばしていく上で基本となる取組みは、EC専用のMD(マーチャンダイジング)です。実店舗と連動した品揃えが基本とはなりますが、ECサイトがブランディングの中心的な役割が増していく中では、ブランド公式オンラインショップで「買う理由」「ファンを増やす」独自のMDを組んでいく必要もあります。
MDとは、小売業やEC業界でよく使われる用語で「商品を市場に適切に提供するための計画・管理プロセス」を指します。「何を、いくらで、どのタイミングで、どのくらい売るかを決める」ことです。
主な取組項目は、どんな商品カテゴリーを扱うかの商品計画、トレンドや顧客ニーズに基づいた商品選定、競合や市場動向を踏まえた価格設定、セールやプロモーションの販売計画、季節やイベントに合わせた商品展開、適正在庫を維持し、欠品や過剰在庫を防ぐ在庫管理、商品別の売上・利益管理などがあります。
ブランド公式オンラインショップの売上を継続的に伸ばして、商品販売を通してファンを増やしていくことを想定した7つの商品の役割を確認シートに沿って決定していただくフレームワークを提示しますので活用ください。
【7つのEC専用アイテム確認シート】

①新規獲得アイテム
ブランド公式ECサイトとして、初めて購入してもらいブランドとの接点を持ってもらうための商品です。歴史や実績のある商品を設定することが多く、お試し品やお試し価格のように新規獲得コストとのバランスで割安感を前面に打ち出す場合もあります。最初のブランドとの接点になるという前提で、2回目購入につなげる販促品(おまけ)、冊子などの同梱物、梱包材なども新規獲得アイテム用に準備することが重要です。
②EC限定・シーズン限定・コラボレーションアイテム
新規獲得アイテムと近い役割を持ちますが、ブランド公式サイトが選ばれる理由や認知のきっかけを増やすアイテムとして位置づけます。実店舗にないオリジナルの「EC専用アイテム」、ECで先行販売または数量限定販売する「シーズン限定アイテム」、キャラクターや著名人、他ブランドと組む「コラボレーションアイテム」などを開発・設定します。この商品はSNSやメディアなどでも話題性含めて広がることも想定して企画・開発していきます。
③ヒーローアイテム(一番商品)
この商品はブランド公式ECサイトを代表するアイテムです。「〇〇〇〇と言えば(自社ブランド)」の〇〇〇〇に当てはまる一番商品にあたります。基本は一定のバージョンアップを行いながら超ロングセラーを目指します。ECでは、リアルのようにシーズンごとに次々と新商品を出すよりも、実績を積み上げるロングセラー型を重視する傾向があります。実績が増えれば「累計〇〇〇〇個販売」や「レビュー件数」「評価点」などで信頼性を高められ、モール内での検索表示や商品ページの購入率にも好影響を与えます。ヒーローアイテムは年に1回は必ず購入されるなど、定期的に何年にもわたって買われる商品になるため、購入状況のデータ分析を行い、顧客とファンのつながりを示す指標として管理することが必要です。
④F2・リピートアイテム
ブランド公式ECサイトが選ばれる理由の一つに「ギフト」があります。ギフトに選ばれるということは、そのブランドやサイトへの信頼度・ファン度が高いことを意味します。ギフトを通じてブランドファンを増やす前提で、実店舗では扱わない専用ギフトを用意したり、包装資材を環境配慮仕様や簡易包装で提案するなど、ブランドの想いを反映したギフトを設定します。商品ページでは、安心してギフトを贈れるように詳細なサイズ表示、梱包方法、お届けイメージ、熨斗対応などを明記して訴求します。
⑤ギフトアイテム
この商品は、1回あたりの購入単価を高めることや、購入者に新しい発見を提供することを目的とします。データを分析して併売されやすいアイテムを特定し、ヒーローアイテムの購入導線でレコメンド表示するなどして訴求します。送料無料条件を満たすための追加購入を促すのも有効です。ヒーローアイテムとは異なる商品分類で「実はファンからの支持が高い」といった新しい発見や、使用することで新しいライフスタイルを提案できる商品を設定することも検討してください。
⑥併売アイテム
この商品は、1回あたりの購入単価を高めたり、新しい発見を得てもらうことを目的としたアイテムとなります。こちらもデータを分析しながら併売されやすいアイテムを特定して、そのアイテムを②のヒーローアイテムの購入導線に提案(レコメンド)を行っていきます。送料無料の条件をクリアする時に購入を促したりすることも有効です。また、ヒーローアイテムとは異なった商品分類で「実はファンからは支持が高い」など新しい発見や使用することで新しいライフスタイルが生まれるような商品を設定することもあります。
⑦プレミアムアイテム
この商品はブランドの格を高める役割を担います。ブランド公式ECサイトは、価格やポイント訴求が強いモール系と差別化するため、モールでは売りにくいプレミアム(高価格帯)商品を設定することが重要です。目安としてヒーローアイテムの約3倍の価格帯を想定します。たとえば、ヒーローアイテムが5,000円前後であれば、プレミアムアイテムは15,000円前後が目安です。販売数量は多くない場合が想定されますが、プレミアム価格帯を設けることで価格帯の上方向への視線が生まれ、ヒーローアイテムの価格妥当性を理解してもらいやすくなります。
以上が、ブランド公式EC成長の中心となるMD(アイテム)の説明です。アイテムの役割をフレームワークで決め、それに沿った商品開発・設定を行うことで、在庫計画・商品ページ・プロモーション・データ分析を緻密に実行できるようになり、売上だけでなく利益率の向上にもつながります。
【EC専用のアイテム付加で売上が伸びていくイメージ】

上記のイメージ図のように、①~⑦のアイテムがそれぞれの役割を持ちながら積みあがるように売上にも貢献し、同時にブランドのファンが増えていきます。
改めて、ブランド公式ECサイトは、楽天市場やAmazonのようなモール系とは異なり、特定の売れ筋商品や価格で勝負する商品を中心に売上を確保していくモデルとは異なった側面を持っていますので、このEC専用MDシートにあるようにアイテム毎に役割を明確に設定するか、役割に沿った商品企画・開発を行っていくことで、ファンを増やし継続的な成長に繋がりますのでこのシートを活用いただければと思います。
■筆者プロフィール
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
立川 哲夫(たつかわ てつお)
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ECマーケティング×企業経営に精通したスペシャリスト
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。多様な業界・企業規模における経営課題を整理し、ビジネスモデルの構築、戦略立案、実行支援に携わる。特に、EC・O2O・デジタルマーケティング領域での専門性が高く、EC事業を起点にして企業のビジネス拡大を実現。
大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部として新規事業開発や事業拡大に従事し、企業のブランディングやマーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わり、企業変革期における業務推進や社内体制整備、人材育成にも関与し、総合的な経営支援スキルを磨く。5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。 その他、日経主催の講演会・ECセミナー講師、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などへの寄稿実績も多数。