
リテール業界に10年従事し、その後15年にわたり多くの企業においてEコマース参入・成長に関する戦略立案と施策実行を支援してきた筆者(株式会社 久 ブランドEC成長支援室 室長 立川哲夫)が、約20年の高成長期を経てEC業界およびECサイトを運営する企業が、初めて経験する成熟期に入ったと言えるこのタイミングで、ブランド公式EC(自社公式オンラインショップ)の成長戦略を再定義に役立つ「EC成長戦略フレームワーク」を提示・解説していきます。
【2026年度版】お届け体験向上策 設計シート
EC未来予測7つキーワードにて提示しておりますが、ECは、インターネット環境を通してオンライン上の「売り場」として売上を増やしていく役割を担ってきました。ECの大きな特徴は、企業が持つブランドや商品が、サイトで購入した後に購入者の元へ直接「商品が届き、開封、利用・体感を開始する」点にあります。
この購買後の体験までを含めて、ECサイトや購入体験、購入後の関係性維持を設計することで、ECは「ブランドコミュニケーションの場」へと位置づけが変わっていきます。
ECサイトの商品ページは、基本的にスマホ・PC画面を通してデジタル上で情報を伝え、購入につなげる役割があります。また、そのタイミングで購入に至らなかった90%以上の来訪者にも、商品の特徴やブランドメッセージを記憶してもらう役割があります。デジタルの特徴は、リアル店舗とは異なり、いつでもどこでも何度でも確認できる点にあります。店舗スタッフによる販売能力の差を最小化できるという利点もあります。一方で、購入検討者はスマホ中心に膨大な情報に触れるため、1時間前に見た情報を覚えていないことも起こり得ます。
このようなメリット・デメリットを踏まえ、ブランド公式ECサイトの商品ページで訴求する写真や動画素材を集め、デザインに入る前に確認シートにて漏れなく記入して訴求要素を整理することが重要です。そうすることで、会社としてのノウハウを蓄積でき、公開後の検証・改善にあたって関係者間で共通認識を持ちやすくなります。
【ブランド公式ECサイトを起点に、ファンの創出とファンによる共有のイメージ図】

CXバックヤードいままでのECサイトで注文後のフルフィルメント(Fulfillment)は受注管理、在庫管理、ピッキング、梱包、配送、返品・交換対応など商品を顧客に届ける一連の業務を最適化し、より早く・正確に届けるることを重視してきました。
これからはCX(Customer Experience)視点を持ち、顧客が企業やブランドとの接点で感じるすべての体験を設計することが求められます。
単なる商品満足ではなく、購入前から購入後までの一連のプロセス全体を通じて「ファン化につながる感動体験」を生み出す施策や業務改善を重視していく取組をお届け体験向上策設計シートを活用しながら整理にお役立てください。
【ファン化につながるCX向上のフルフィルメント設計イメージ】

【お届け体験向上策 設計シート】

まず、宅配便などで自宅に届けられ、受け取る段階での接点を想定していきます。
① 外箱:段ボール箱
最初の接点としてブランドを意識してもらうため、梱包用段ボール箱にブランドロゴやイラストをデザインしたり、オリジナルの梱包用テープを企画します。
② 内箱:梱包箱(パッケージ素材)
商品と同様に、梱包箱やパッケージ素材でブランドロイヤリティを高めることを狙って企画・デザインします。梱包箱やパッケージ自体が保存用や家庭内の整理箱として再利用したくなるような構造・サイズ・デザインを採用する方法もあります。
次に、配送用の段ボールを開梱して商品の入った箱を開ける「開封の儀」の接点を想定していきます。
③ 梱包箱
この段階は期待値が最も高まるタイミングです。受取人に「何これ!」と驚きを与え、体験向上や発話(口コミ)を促すため、梱包箱のふたの裏側や内側にオリジナルメッセージやデザインを施します。ギフトで贈りたくなることも意識した梱包箱を企画してください。例として、コスメ商材では商品に関連した香りを箱や緩衝材に仕込んでおき、開封時に香りが広がる仕掛けを設けることがあります。
④ 保護資材
ブランドポリシーを感じてもらうため、環境配慮型の再生紙・再生素材を用いた緩衝材や、ブランドロゴ入りの巾着袋などを保護資材として企画します。
⑤ 同梱物(冊子)
開封と同時にブランドのストーリーを感じてもらうため、冊子の表紙にこだわり、ブランドコンセプトやキーイメージを表現するデザインで企画します。複数の商品紹介やキャンペーン案内を詰め込みすぎず、保存性の高い一冊にまとめ、あえてビニール袋に入れない等の工夫で速やかに手に取って閲覧してもらえる設計を意識します。
次に、届いた商品を利用・消費する過程で共有したくなる接点を想定していきます。
⑥ ノベルティ(おまけ)
商品と一緒に撮影してSNSに投稿したくなるような、ブランドロゴやキャラクターデザインを入れた比較的コストの低いノベルティを企画します。可能であれば自然素材を用い、日常的に目にする・使うことでブランド接点が持続するアイテム(例:コースター、メモ用紙、絵葉書等)を検討します。
⑦ 冊子・サンプル
商品利用後もブランドとの接点を維持・拡散させるため、読み物や次回注文の参考になる内容を盛り込んだ12ページ以上の冊子など、保存性のあるコンテンツを用意します。次回購入につながるサンプルや、素材サンプル(特に高額商品の場合)を同梱することで、家族や友人との会話のきっかけ(=「家ナカ営業ツール」)となり、購入検討の場を広げることを狙います。
⑧ QRコード
梱包箱、同梱物、ノベルティ等にQRコードを表示して、YouTubeなどの動画や自社の公式SNSへ誘導します。主に使い方、製造工程、生産者紹介、ブランド紹介などを動画で伝え、ブランド接点を拡大します。
以上が主な接点と企画のポイントです。冒頭でも述べたように、これからの公式ECサイトは「ブランドコミュニケーションの場」へと進化していきます。
売上を伸ばすための商品企画・販売施策だけでなく、CX(Customer Experience)視点を取り入れ、EC販売の特徴である購入後の接点・体験・感動を起点にした企画や施策を設計・実行していく必要があります。以上を踏まえて設計シート活用してください。
■筆者プロフィール
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
立川 哲夫(たつかわ てつお)
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ECマーケティング×企業経営に精通したスペシャリスト
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。多様な業界・企業規模における経営課題を整理し、ビジネスモデルの構築、戦略立案、実行支援に携わる。特に、EC・O2O・デジタルマーケティング領域での専門性が高く、EC事業を起点にして企業のビジネス拡大を実現。
大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部として新規事業開発や事業拡大に従事し、企業のブランディングやマーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わり、企業変革期における業務推進や社内体制整備、人材育成にも関与し、総合的な経営支援スキルを磨く。5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。 その他、日経主催の講演会・ECセミナー講師、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などへの寄稿実績も多数。