ここ数年のEC市場の急速な環境変化により、目先の売上を追うだけのECマーケティングは限界を迎えています。本コラムでは、ケラー教授が提唱した「CBBEモデル(顧客ベースのブランド・エクイティ)」をECの戦略・実践に落とし込み、顧客の心理に蓄積された資産を可視化する新指標「ブランドスコア」の概念と活用ポイント解説していきます。
なぜ今から、EC事業に「ブランド資産評価モデル」が必要なのか
約20年成長を続けたEC市場はここ数年の成長率からも成熟期を迎えたと言え、過去にEC事業者が経験したことが無いような変革の真っ只中にいます。特にデジタル接点の急拡大により、オンライン上に似たような情報が溢れ、他社との差別化や自社サービスの認知拡大を難しくしています。さらにここ2年で一気に浸透・民主化したAIにより、従来のマーケティングプロセスや手法が通用するかも不透明な状況が生まれています。
これまで多くのEC事業者は、強力な集客力や経済圏を持つECモールを中心にて販路拡大や売上拡大を実現してきました。しかし、ECモールに於いても市場の成長率鈍化に伴う競合の激化は「価格競争」と、広告による顧客獲得単価の高騰も引き起こしています。
こうした状況が顕在化した中で「売上のみを目的」にしたEC運営の持続性は難しくなると予測しています。目先の売上やコンバージョン率だけを追い求めると、企業は過度なポイント付与・値引きや安売りが優先となり、短期的には売上が作れたとしても、中長期的にはブランドが本来持っていた「価値」が下がることで顧客の離脱や利益の低下が起こる可能性が高くなります。
2026年以降は、EC事業を再定義し「EC販売」という領域を拡大した視点で、ブランド全体の成長戦略の中で、ブランド公式ECサイトを中心に置き、データの統合を行った上で、当社が提唱する「ブランドスコア(ブランド資産)」を軸に評価・数値化、各種施策を行っていく必要があると考えています。
【ブランド公式ECサイトを中心に置くモデルへシフト】

ブランド公式ECの再定義「販路」から「資産蓄積の場」へ
モールや広告への過度な依存、そして目先の売上だけを追う「売上のみを目的」にしたEC運営がブランドの価値を奪う危険性について触れましたが、ここからは、価格競争から脱却し、「価値競争」へとシフトするための具体的な「ブランド公式ECの再定義」について解説します。
現状、多くの企業は、ECサイトを「モノを売るための販路」として捉えがちです。しかし、これからのブランド公式ECは、「モノの販売を通して」顧客とのつながりを持ち、信頼や共感といった無形の「資産蓄積の場」「ブランドコミュニケーションの場」に再定義する必要があります。
ブランド・エクイティ(ブランド資産)の提唱者であるデビッド・アーカー教授も、ブランド・エクイティを「価値を加算または減算する、一連のブランド資産および負債」と定義しています。つまり、日々のECサイトでの顧客体験が、ブランド資産を増やす戦略や施策になっているか、それとも安易な安売りなどによって負債を増やしているかを意識する必要があると言えます。
そこで当社が提唱するのが、ECにおけるマーケティング活動が顧客の心にどれだけ資産を形成したかを測る「資産診断指標=ブランドスコア」の活用です。
【蓄積型のデータを中心にECサイトを評価していく】

これまで、ブランドの価値は目に見えにくく、評価しにくいという課題がありました。しかし、ブランド公式ECに「蓄積される顧客の行動データ」を正しく分析すれば、売上などの短期的な指標だけでは測れない「ブランドの基礎体力」を可視化・評価し、コントロール可能な状態にすることができます。ブランド公式ECを「資産蓄積の場」として正しく評価・管理し、ブランドスコアという指標を持つことで、企業は「なぜ顧客が自社を選んでくれるのか」という根源的な問いにデータで評価することが可能になり、結果としてECサイト経由の継続的な売上拡大に繋がっていきます。
次回は、この「ブランドスコア」を算出するための世界的な理論的枠組み「CBBEモデル」を、EC市場にどのように応用していくのか、提示・解説していきます。
■筆者プロフィール
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
立川 哲夫(たつかわ てつお)
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ECマーケティング×企業経営に精通したスペシャリスト
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。多様な業界・企業規模における経営課題を整理し、ビジネスモデルの構築、戦略立案、実行支援に携わる。特に、EC・O2O・デジタルマーケティング領域での専門性が高く、EC事業を起点にして企業のビジネス拡大を実現。
大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部として新規事業開発や事業拡大に従事し、企業のブランディングやマーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わり、企業変革期における業務推進や社内体制整備、人材育成にも関与し、総合的な経営支援スキルを磨く。5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。 その他、日経主催の講演会・ECセミナー講師、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などへの寄稿実績も多数。