「システムを入れたのに、現場が元のやり方に戻ってしまった」「多額をかけたのに、使われない」——受発注のデジタル化には、こうした失敗がつきまといます。このような現場での生々しい失敗は、実は“作り始める前”の段階で決まっています。ツールの優劣でも、技術力でもありません。本稿では、脱アナログ受発注でつまずく会社に共通する5つのパターンを、自社点検のチェックリストとして整理します。
| よくある失敗パターン | 対応策 |
|---|---|
| ①「どんなシステムにするか」から考える | 先に“どの業務を、誰の、どんな手順で置き換えるか”を問う |
| ②現場の暗黙知を言語化しない | 設計より先に“業務の棚卸し”に時間を使う |
| ③商習慣を全部そのまま再現する | 割り切って、標準化できる発注から載せる |
| ④いきなり100点(フルカスタム)を狙う | 予算別の“着地シナリオ”で段階的に設計する |
| ⑤抵抗を“システムの問題”と誤解する | 生まれる時間を数値で見せ、協力先から小さく始める |
失敗1:「どんなシステムにするか」から考え始める
1つ目が、“どんな発注サイトにするか”という問いから始めてしまうことです。BtoB受発注のデジタル化とは、きれいな受発注サイト画面を作ることではなく、企業間の受発注業務そのものを設計し直すことです。
成果を出す現場が最初に問うのは「どんなサイトか」ではなく、「今、受発注は誰が、どんな手順で回しているのか」です。ここを飛ばして画面や機能から入ると、現場の実務と噛み合わないシステムができ上がり、結局は元のやり方に戻ってしまいます。
失敗2:現場の“暗黙知”を言語化しないまま作る
2つ目が、現場に染み付いた“暗黙知”を可視化しないまま作ってしまうことです。受発注の現場には、「この取引先はこの単位でしか受けない」「この時間を過ぎた注文は翌日扱い」といった、担当者しか知らないルールや例外処理が無数にあります。ここを言語化せずにシステムを入れてしまうと、システムで考慮できていなかった例外のたびに手作業が発生し、二重運用に陥って形骸化します。
遠回りに見えても、設計より先に“業務の棚卸し”に時間を使う会社が、結局いちばん早く成果にたどり着きます。たとえばBtoBの注文書では、備考欄の一言(“いつもの送料で”“この便で”といった指示)が、送料計算や出荷の段取りに絡んでいることがあります。こうした“隠れた仕様”を先に洗い出せるかどうかが分かれ目です。
失敗3:商習慣を“全部そのまま”再現しようとする
3つ目は、これまでの商習慣を1つ残らずシステムに再現しようとすることです。多階層の承認フロー、「いつもの分を適当に」という曖昧な発注、在庫の秒単位リアルタイム同期——これらを完璧に作り込もうとするほど、開発は膨らみ、かえって使いにくくなります。
弊社が勧めるのは、思い切った“割り切り”です。複雑な承認は大口の個別ルートに残し、標準化できる発注だけを載せる。“すべてを載せない”と決めることが、投資を小さく確実に回すコツです。商習慣を丸ごと再現しようとすると、開発費が数千万円規模に膨らむことも珍しくありません。
失敗4:予算に対して、いきなり“100点”を狙う
4つ目は、最初から満点のシナリオを狙うことです。「どうせやるなら完璧に」とフルカスタムで作り込んで予算が膨らみ頓挫する。あるいは逆に、安さだけで選んで数年後に作り直す。どちらも“投資の設計”がないために起きます。そこで弊社が提案時に用意するのは、予算に応じた複数の“着地シナリオ”です。
まず標準機能で小さく始め、効果を確かめてから、本当に必要な部分だけを追加していく。段階を設計できるかどうかが、成否を分けます。たとえば“フルカスタム/標準+厳選開発/標準のみ”の3案で費用と効果を並べると、いちばん現実的なのは多くの場合が真ん中——将来の拡張余地を残しつつ、初期投資を抑える着地です。
失敗5:現場の抵抗を“システムの問題”だと思い込む
最後は、導入したのに使われない原因を「システムが使いにくいからだ」と考えてしまうことです。そう考えて機能を足し続けても、たいてい状況は変わりません。本当の原因は、システムではなく「今のやり方を変えたくない」という人の気持ちにあることが多いからです。長く慣れたやり方ほど、多少不便でも変えたくないものです。
効果的なのは機能を増やすことではなく、相手にとっての“得”を具体的に伝えることです。たとえば取引先には「Webにすれば24時間いつでも発注でき、電話の行き違いもなくなります」、社内の担当者には「入力の手間が減った分を、提案やお客様対応にまわせます」——というように、その人自身のメリットに翻訳して伝えます。
そして、いきなり全社・全取引先へ一気に広げないことです。まずは協力的な取引先や一部の部署から小さく始め、「たしかに楽になった」という成功例をつくってから広げるほうが、結局は早く定着します。
大切なのは、こうした説明やフォローは“一度きり”では終わらないという点です。取引先や現場が新しいやり方に慣れ、自然に使いこなせるようになるまで、そばで支え続ける——この“伴走”があるかどうかで、定着するかどうかが変わります。弊社が支援でいちばん力を入れているのも、この“使われる状態”をつくる伴走の部分です。

BtoB EC構築・運用における5つの失敗に共通するのは、いずれも“システムを作る前”の判断だということです。裏返せば、避け方は明確です。
- 業務を聞き切る
- 暗黙知を言語化する
- 載せる範囲を割り切る
- 投資を段階で設計
- 人の抵抗に向き合う
ツールを選ぶのは、上記5ステップの後で十分間に合います。
そして、作って終わりにせず“使われる状態”になるまで伴走することまで含めて、はじめて投資は回収されます。まずは、自社の受発注が“どの担当の、どんな手順”で回っているかを書き出すところから始めてみてください。
〈筆者プロフィール〉
ECコンサルタント K.H
大阪大学を卒業後、新卒でゲーム会社にプランナーとして入社。2023年に株式会社久へジョインし、データアナリストとしてキャリアをスタート。現在はECコンサルタントとして、データドリブンなアプローチを武器に、クライアントの自社公式ECサイトを中心に分析から改善・効果検証まで一貫して支援。2026年より「ブランドEC成長支援室」を兼務し、伴走型コンサルタントとして日々の試行錯誤を重ねながら奮闘中。
プライベートでは茶道表千家講師の顔を持つ一方、アマチュアキックボクシングで心身を鍛える一面も。