【第3回】「ブランドスコア」で可視化・評価する

ブランドEC ブランドスコア

ここ数年のEC市場の急速な環境変化により、目先の売上を追うだけのECマーケティングは限界を迎えています。本コラムでは、ケラー教授が提唱した「CBBEモデル(顧客ベースのブランド・エクイティ)」をECの戦略・実践に落とし込み、顧客の心理に蓄積された資産を可視化する新指標「ブランドスコア」の概念と活用ポイント解説していきます。


ブランドスコア(ブランド資産)の土台となる3つの項目

ここまで「2026年度、ブランドECを中心に再定義する」必要性とブランド価値をECデータで測る「CBBEモデル(Customer-Based Brand Equity:顧客ベースのブランド・エクイティ)」の活用を提示してきました。

【ブランド・レゾナンス・ピラミッド(CBBEモデル)】

今回は、下記3つの評価項目の目標値・改善に向けたアクション例を提示しながら、ブランドECを資産の蓄積の場として捉え「ブランドスコア」を高めていくためのポイントを解説していきます。

【ブランドスコア(ブランド資産)の土台となる3つの項目】

  1. Business Health(事業健全性・持続性)
  2. Identity(認知・指名性)
  3. Meaning(体験・品質)


Business Health(事業健全性・持続性)の評価項目例

どれだけ顧客から支持され・ファンが多いブランドであっても、収益構造が赤字であれば事業は持続しません。ここでは事業の基礎体力と投資効率を評価していきます。

■限界利益率(目標値: 60%)
【意味】 原価・配送費・税を除いた利益率です。固定費を賄い、マーケティングへの投資余力を生むための基礎収益力を測ります。
【改善アクション例】 原価率の見直し(仕入交渉や製造効率化)、高利益率商品の販売構成比の向上、そして安易な値引き販売を抑制することが求められます。

■広告費用対効果(目標値: 400%)
【意味】 売上高を広告費で割った指標です。広告費が売上に貢献しているか、赤字を垂れ流していないかを確認します。
【改善アクション例】  CVRの高いクリエイティブへの予算集中や、除外キーワード設定による無駄クリックの排除、リターゲティング精度の向上が有効です。

■チャネル健全性(目標値: 50%)
【意味】 全売上に占める自社の公式ECの割合です。手数料が高めの顧客データが手に入らない外部モールへの依存度を下げ、自律性を測ります。
【改善アクション例】 自社の公式EC限定商品の開発や、独自の会員特典(ポイント・ランク)の強化、同梱物・ファンイベントを用いた自社サイトへの誘導など。

Identity(認知・指名性)の評価項目例

ブランド育成のピラミッドの第1ステップとなる「認知」を獲得する段階です。単に知られているだけでなく、「第一想起」される確固たるブランドの認知があるかをデータで確認していきます。

■市場プレゼンス(目標値: 100%)
【意味】 外部モール売上が目標に対しどれだけ達成しているかを確認、自社公式ECだけでなく外部経済圏(楽天・Amazon等)含めて、EC全体でシェアを取れているかを確認します。
【改善アクション例】 主力商品を中心に公式ECのAI検索対応、モール内SEO対策を行い基礎力を高めていきます。

■指名検索成長率(目標値: 110%)
【意味】 ブランド名を含む検索数の昨対比であり、知名度が前年より拡大しているかを見るマーケティングの総合成績です。
【改善アクション例】 通常の検索対応はしながら、商品企画・開発を起点にしたPRやSNSでの話題化を継続的に行っていきます。

■SNS拡散力(目標値: 120%)
【意味】SNS経由の流入セッション数の昨対比です。広告費を使わずに口コミやバズで自然流入を作れているかを示します。
【改善アクション例】 UGC(ユーザー投稿)キャンペーンやショート動画をベースにしたインフルエンサー・クリエイターとの連携を行います。

■ダイレクト流入率(目標値: 20%)
【意味】ブックマークやURL直打ちで訪れる「濃いファン」の比率です。
【改善アクション例】公式アプリの導入やLINE会員の囲い込みで数値を引き上げます。

■指名検索シェア(目標値: 40%)
【意味】自然検索全体に占めるブランド指名ワードの割合です。機能や一般名詞ではなく「ブランド名」で指名されているかを確認します。
【改善アクション例】指名ワードにつながる、他社にはない独自商品名の設定とそのワードをベースにしたコンテンツを増やし、PR施策を計画・実行します。

Meaning(体験・品質)の評価項目例

顧客のブランドに対する体験と品質評価に関わる、サイト内の回遊行動や購買行動のデータから、主にブランドへの没入度と商品供給の質を評価していきます。

■コンテンツ没入率(目標値: 15%)
【意味】ブログや私たちについて(About)ページなどの「読み物」を閲覧したセッションの割合です。商品を買うだけでなく、ブランドの世界観を楽しんでいるかを示します。
【改善アクション例】 魅力的な特集記事の定期更新や、商品ページから関連コンテンツへの導線を強化しましょう。

■商品没入度(目標値: 120%)
【意味】商品ページでの「閲覧回数×滞在秒数」の最大スコアです。特定の商品を「何度も」「長く」見ているかという購入検討の深度を測ります。
【改善アクション例】商品画像の付加、着用動画の掲載、スペックや開発ストーリーの詳細な記載で滞在時間を伸ばします。

■UX健全度(目標値: 150)
【意味】エンゲージメント率×滞在時間×表示速度で算出される指標です。サイトが快適に閲覧でき、ユーザーを惹きつけているか(直帰されていないか)を確認します。
【改善アクション例】画像の軽量化によるサーバー応答速度の改善や、ファーストビューの改修が必須です。

■プロパー消化率(目標値: 80%)
【意味】 定価(割引なし)で売れた金額の割合です。ブランド力を維持しながら、適正価格で商品を売り切る力を測ります。
【改善アクション例】セール依存から脱却し、適正な在庫発注(需要予測)や発売直後のプロモーション施策を検討します。

■機会損失額(目標値: 100,000以下推奨)
【意味】: 欠品中に商品ページが閲覧された回数に基づく推定損失額です。「在庫があれば売れていたはず」の金額を可視化します。この数値は低いほど良い状態です。
【改善アクション例】人気商品の在庫確保、欠品時の「再入荷通知」登録促進、予約販売への切り替え。

 

以上が、ブランドEC成長の土台となる3つの項目と、その目標値および改善アクション例です。
EC運営では取り組むべき課題が多岐にわたりますが、限られた投資やリソースを前提に、中長期的な視点で着実な成長を実現していくためには、優先すべきテーマと実行項目を明確に定めることが欠かせません。このコラムでは、その判断軸となる項目として捉えていただければと思います。

次回は、これらの体験・評価がどのように顧客の「信頼」へとつながっていくのかを示す「Response(顧客評価・信頼)」、そしてブランドへの深い愛着やファン化につながる「Resonance(顧客共鳴・ロイヤルティ)」の評価項目について解説していきます。

 

■筆者プロフィール
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
立川 哲夫(たつかわ てつお)

ECマーケティング×企業経営に精通したスペシャリスト
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。多様な業界・企業規模における経営課題を整理し、ビジネスモデルの構築、戦略立案、実行支援に携わる。特に、EC・O2O・デジタルマーケティング領域での専門性が高く、EC事業を起点にして企業のビジネス拡大を実現。

大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部として新規事業開発や事業拡大に従事し、企業のブランディングやマーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わり、企業変革期における業務推進や社内体制整備、人材育成にも関与し、総合的な経営支援スキルを磨く。5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。 その他、日経主催の講演会・ECセミナー講師、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などへの寄稿実績も多数。