ここまでの連載では、EC事業を再定義するうえでのキーワードとして、ECを「売上を伸ばす場」ではなく、ブランドEC(自社公式EC)を「資産蓄積の場」と位置づけ、ブランディングおよび顧客接点の創出、ファン育成の中心に据え直すことを提言してきました。
その中心を担うのが「品揃え(重点アイテム)」です。EC販売の本質は、デジタルを通じて商品を購入する体験を提供し、その利用体験によってブランドロイヤルティの向上やリピート購入につなげることにあります。
さまざまな環境変化に対応しながら、ブランドECで利益を確保しつつ持続的な成長を実現するためには、その基盤となる品揃え(重点アイテム)も再定義する必要があります。この重点アイテムの設定によって、「意図を持った戦略的な販売計画」を持つことができ、経営効率向上やAIへの対応も可能となります。
今回は、当社がブランドECの再定義と連動して提言している「自社公式EC専用アイテム」として設定してほしい6つの役割とそれぞれのアイテムが、本連載で提唱してきたブランドEC評価指標「ブランドスコア」のどの項目に影響するのかについても併せて解説していきます。
ブランドEC専用の6つの重点アイテムとブランドスコア例を提示する前に、改めて「ブランドスコア評価のピラミッド(CBBEモデル)」について解説しておきます。
【ブランドスコア評価ピラミッド(CBBEモデル)】

1.Business Health-ビジネス ヘルス(事業健全性・持続性)の評価項目
収益構造の健全性を確認するために、事業の基礎体力と投資効率を評価していきます。
2.Identity-アイデンティティ(認知)の項目
ブランド育成のピラミッドの第1ステップとなる「認知」を獲得する段階です。単に知られているだけでなく、「第一想起」される確固たるブランドの認知があるかをデータで確認していきます。
3.Meaning-ミーイング(体験・品質)の項目
顧客のブランドに対する体験と品質評価に関わる、サイト内の回遊行動や購買行動のデータから、主にブランドへの没入度と商品供給の質を評価していきます。
4.Response-レスポンス(信頼・顧客評価)の項目
企業に対する社会的信頼や、顧客の不安を払拭できているかを、特定ページの閲覧や離脱率などの行動データから測定します。
5.Resonance-レゾナンス(共鳴・ロイヤルティ)の項目
これまで評価項目が土台となり顧客はブランドのファンとなり、 継続的かつ高いLTV(顧客生涯価値)をもたらします。リピート購入にとどまらず、ブランドへの深い愛着やファン化の度合いを評価していきます。
ブランドEC専用の6つの重点アイテムを決める
【6つの重点アイテムとブランドスコア例】

① 新規獲得アイテム
ブランド公式ECサイトにおいて、初めて購入してもらい、ブランドとの接点を持っていただくための商品です。
最初のブランド接点となることを前提に、2回目の購入につなげるための販促品(おまけ)や冊子などの同梱物、梱包材なども、新規獲得アイテム専用として準備することが重要です。
▼ブランドスコアに影響する項目例
- Business Health(事業健全性)【広告費用対効果(ROAS)】広告投資に対する売上貢献度(売上 ÷ 広告費)
- Response(信頼)【会員登録率】新規購入者のうち、ゲスト購入ではなく会員登録を完了した割合
② EC限定・シーズン限定・コラボレーションアイテム
新規獲得アイテムと近い役割を持ちますが、ブランド公式ECサイトが選ばれる理由をつくり、認知拡大のきっかけを増やすためのアイテムです。
実店舗では購入できない「EC限定アイテム」、ECで先行販売または数量限定販売する「シーズン限定アイテム」、キャラクターや著名人、他ブランドと共同開発する「コラボレーションアイテム」などを企画・開発します。
これらの商品は、SNSや各種メディアでの話題化も期待できるため、その波及効果も想定しながら企画を進めることが重要です。
▼ブランドスコアに影響する項目例
- Resonance(共鳴・ロイヤルティ)【グッズ購入率】ロゴ入りアイテムなどの周辺商品を購入した割合(愛着の深さ)
- Response(信頼)【キャンペーン到達率】外部施策(メルマガ・SNSなど)から流入したユーザーが商品詳細ページまで遷移した割合
③ ヒーローアイテム(一番商品)
ブランド公式ECサイトを代表する商品です。「〇〇と言えば、このブランド」と想起される、一番商品にあたります。
基本的には継続的なバージョンアップを行いながら、超ロングセラー商品として育成していきます。ECでは、実店舗のようにシーズンごとに新商品を投入し続けるよりも、実績を積み重ねるロングセラー型の商品戦略が有効なケースが多く見られます。そのため、できる限り欠品を発生させないよう、需要予測と年間生産計画を綿密に設計することが重要です。
また、ヒーローアイテムの商品ページには、AI検索やAIレコメンドにも理解されやすい商品説明やストーリーを充実させ、情報を継続的に更新していくことが求められます。
▼ブランドスコアに影響する項目例
- Identity(認知)【指名検索成長率】ブランド名・社名を含む検索ボリュームの前年比推移
- Meaning(体験・品質)【プロパー消化率】総販売額に占める定価販売額の比率
- Response(信頼)【機会損失額(LOWER)】欠品中の商品ページ閲覧数から推定される損失額
④ F2・リピートアイテム
ヒーローアイテムの次に提案・購入を促す商品として位置付け、ファン化につなげる重要な役割を担います。
また、ブランド公式ECサイトが選ばれる理由の一つに「ギフト需要」があります。ギフトとして選ばれることは、そのブランドやECサイトへの信頼度や好意度が高いことの表れとも言えます。
ギフトを通じてブランドファンを増やすことを前提に、実店舗では取り扱わないEC専用ギフトを用意したり、環境配慮型の包装資材や簡易包装を選択できるようにしたりするなど、ブランドの価値観を反映したギフト提案を行います。
商品ページでは、安心してギフト利用できるよう、サイズ表記、梱包方法、お届けイメージ、熨斗対応などを分かりやすく掲載することが重要です。
▼ブランドスコアに影響する項目例
- Response(信頼)【リピート率】累計2回以上の購買実績を持つ顧客の割合
- Resonance(共鳴・ロイヤルティ)【ギフト利用率】ラッピング指定や贈答目的で購入された注文の割合
⑤ 併売アイテム
1回あたりの購入単価向上や、新たな商品との出会いを創出することを目的としたアイテムです。
購買データを分析しながら併売されやすい商品を特定し、ヒーローアイテムの購入導線上でレコメンドを行います。
また、ヒーローアイテムとは異なる商品カテゴリーでありながら、「実はファンからの支持が高い商品」や、「新しいライフスタイル提案につながる商品」を設定することで、新たな顧客価値の創出にもつながります。
▼ブランドスコアに影響する項目例
- Resonance(共鳴・ロイヤルティ)【買い回り率】2カテゴリー以上の商品群を併せて購入している顧客の割合
- Meaning(体験・品質)【カゴ落ち抑制力】カート投入後の購入完了率を加味した決済プロセスの完遂力
⑥ プレミアムアイテム
ブランドの格や世界観を高める役割を担う商品です。
ブランド公式ECサイトは、価格やポイント訴求が中心となるモール型ECとの差別化を図るためにも、モールでは展開しにくいプレミアム価格帯の商品を用意することが重要です。価格帯の目安としては、ヒーローアイテムの約3倍程度を想定します。例えば、ヒーローアイテムが5,000円前後であれば、プレミアムアイテムは15,000円前後が一つの基準となります。
販売数量自体は多くならない場合もありますが、高価格帯の商品を設けることで価格比較の基準が生まれ、ヒーローアイテムの価格妥当性を理解してもらいやすくなる効果も期待できます。
▼ブランドスコアに影響する項目例
- Resonance(共鳴・ロイヤルティ)【ロイヤル顧客率】3回以上の購入実績があり、直近で離脱していない顧客の割合
- Meaning(体験・品質)【コンテンツ没入率】ブログやブランドストーリーページを閲覧したセッションの割合
以上が、ブランド公式EC(自社公式EC)の成長を支える主要アイテムの役割です。
重点アイテムの絞り込みでAI検索対応も可能に
重点管理アイテムごとに明確な役割を定義することで、AIにも選ばれやすい商品ページの構築・対応がより精度高く・深く対応が可能になります。
AI検索や要約に選ばれるEC商品ページを作るには、「AIが正しく読める構造」と「信頼できる一次情報」を整えることが基本となります。
主な対応項目として、
1. 商品情報のテキスト化:素材・サイズ・用途は画像埋め込みにせず、本文テキストで記載してAIに正しく解析させます。
2. 構造化データの実装:価格・在庫・評価などをAI専用の共通言語(タグ)で意味付けし、正確に伝えます。
3. 具体数値とQ&A(FAQ):抽象的な言葉ではなく客観的な数値(例:〇%が満足等)や、ユーザーの疑問に答えるQ&Aセクションを置きます。
4. 写真付きレビューとスタッフの声: AIが自ら生成できない「実際の使用感」や写真は、AIが信頼して推薦する決め手になります。
「機械が解釈しやすいデータ構造」と「人間にしか出せない信頼情報」を両立させることがポイントとなります。
さらに、重点アイテムを絞ることで、データ分析精度の向上、需要予測の高度化が可能になり、売上拡大だけでなく利益率の向上にもつながり、ブランドECの持続的な成長を実現する中心的な役割となりますので、このタイミングで重点アイテムの再定義の参考にしてください。
■筆者プロフィール
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
立川 哲夫(たつかわ てつお)

ECマーケティング×企業経営に精通したスペシャリスト
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。多様な業界・企業規模における経営課題を整理し、ビジネスモデルの構築、戦略立案、実行支援に携わる。特に、EC・O2O・デジタルマーケティング領域での専門性が高く、EC事業を起点にして企業のビジネス拡大を実現。
大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部として新規事業開発や事業拡大に従事し、企業のブランディングやマーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わり、企業変革期における業務推進や社内体制整備、人材育成にも関与し、総合的な経営支援スキルを磨く。5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。 その他、日経主催の講演会・ECセミナー講師、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などへの寄稿実績も多数。