BtoB ECの検討は、たいてい「どのカートを使うか」から始まります。BカートやShopifyといった名前が挙がり、機能一覧を比べ、費用を見積もる。しかし私たちが現場で見てきた限り、プロジェクトの成否を分けるのはカートの優劣ではありません。
決め手は、そのカートを既存の基幹システムとどうつなぐか——連携の設計です。本稿では、なぜ連携が後回しになりやすいのか、そして経営が先に決めるべきことを整理します。
なぜ「カート選び」から始めると失敗するのか
カートは、取引先が触れる“おもて”の部分です。画面が見えるぶん検討しやすく、比較もしやすい。一方で連携は“うら”の話で、目に見えず、専門的で、後回しにされがちです。
ところが実際の受発注業務では、注文を受けた後の在庫引当、価格の適用、出荷指示、売上計上まで、そのほとんどが基幹システム(または販売管理システム) 側で動いています。ここがつながっていなければ、いくら発注画面が使いやすくても、社内には手作業が残ったままです。
BtoBで連携が難しくなる3つの理由
BtoBの連携はBtoCより難しいのが常ですが、そこにははっきりした理由があります。
第一に、価格です。BtoBでは取引先ごとに単価や掛け率が異なります。「誰が見ているか」によって表示価格を変える必要があり、その価格情報は基幹側にあります。
第二に、在庫と納期です。複数拠点の在庫、取り寄せ、メーカー直送。どの在庫をどう引き当てるかというルールは、基幹システムの中に作り込まれています。
第三に、商品コードです。自社の型番、取引先ごとの呼び方、基幹の管理コード——これらが一致していないと、注文データは正しく流れません。BtoCのように「商品を並べて売る」だけでは済まないのが、BtoBの構造です。
連携を軽視した現場で、実際に起きること
連携設計を詰めないまま導入すると、ある典型的な症状が現れます。Webで受けた注文を、担当者が基幹に手入力し直す。カートと基幹で在庫がずれ、欠品や納期の連絡に追われる。取引先ごとの特殊な条件はシステムで扱えず、結局は電話とメールで補う。
つまり、受注の入口だけがデジタルになり、その先は手作業のままという状態です。これでは工数は減らず、「システムを入れたのに楽にならない」という不満だけが残ります。過去コラム「なぜ受発注DXは失敗するのか?共通する5つのパターン」で述べた“作る前の判断”の失敗が、最も分かりやすい形で現れるのがこの連携の軽視です。

「基幹を刷新しないと無理」ではない
ここで多くの経営者が身構えます。「うちの基幹は古く、API連携にも対応していない。作り直すしかないのか」と。結論から言えば、その必要はありません。
実際、弊社が支援する現場の多くは、長年使い込まれた基幹システムを抱えています。そうした環境でも、CSVやFTPといったファイル連携を使い、間にデータ変換の仕組み(ハブ)を挟むことで、基幹に手を入れずにECとつなぐことができます。
弊社サービスのECデータマネジメントクラウド「ECコネクター®」も、こうした現場のために作られたものです。基幹の刷新は、数年がかりの大きな投資になります。まずは既存資産を活かしてつなぎ、必要になった時点で刷新を考えれば十分です。
カートを選ぶ前に、経営が決めるべきこと
では、カート選定の前に何を決めるべきか。難しい技術の話ではありません。次の4点を、自社の言葉で答えられるかどうかです。
①取引先ごとの価格は何種類あり、どこで管理しているか。
②在庫と納期の情報は、どのシステムが正になるか。
③商品コードは社内で統一されているか。
④基幹とのデータのやり取りは、リアルタイムが必要か、1日数回のまとめ更新で足りるか。

この4つが整理できていれば、カート選定の判断軸は自然と定まります。逆にここが曖昧なままでは、どんなに評判の良いカートを選んでも噛み合いません。
ツールの比較表を作る前に、自社のデータがどこにあり、どうつなぐのかを描いてみてください。次回は、その連携方式の違い——汎用パッケージとEC特化型では何が変わるのかを取り上げます。
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〈筆者プロフィール〉
ECコンサルタント K.H
大阪大学を卒業後、新卒でゲーム会社にプランナーとして入社。2023年に株式会社久へジョインし、データアナリストとしてキャリアをスタート。現在はECコンサルタントとして、データドリブンなアプローチを武器に、クライアントの自社公式ECサイトを中心に分析から改善・効果検証まで一貫して支援。2026年より「ブランドEC成長支援室」を兼務し、伴走型コンサルタントとして日々の試行錯誤を重ねながら奮闘中。
プライベートでは茶道表千家講師の顔を持つ一方、アマチュアキックボクシングで心身を鍛える一面も。