【データサイエンティストの開発録③】システムに「デザインの感覚」を実装する〜自然な影の自動計算〜

ECデータ AI活用

完璧な切り抜きがもたらす「不自然さ」

株式会社久(Q Inc.)でデータサイエンティストを務めるRINです。

【データサイエンティストの開発録②】では、AIとシステム間のデータ連携を最適化し、画質を保ったまま背景を切り抜く仕組みについて解説しました。 

画像の受け渡しエラーは解消され、システムは「綺麗な切り抜き画像」を自動で出力できるようになりました。しかし、その画像をECサイトの商品一覧に並べてみると、どうしても拭えない違和感があったのです。

AIによって背景が完全に除去された商品は、まるで空中に浮いているように見えてしまいます。ECサイトにおいて、商品が地に足をつけている「シズル感」や「立体感」を出すためには、適切な「ドロップシャドウ(影)」をつける方法などがあります。

しかし、この影をつける作業を人間の手で1つ1つPhotoshopなどで行なっていては、完全自動化とは言えません。

固定値の罠:商品の大きさが違うと影がおかしくなる

最初は、プログラムに「右下に10ピクセルずらして、12ピクセルぼかした黒い影を作る」という、固定のルール(固定値)を設定しました。

しかし、この方法は大失敗に終わりました。対象となる商品画像の解像度や、被写体自身の大きさが毎回異なるためです。

 たとえば、同じ「10ピクセルのズレ」でも、画像全体が40ピクセルの小さなサムネイル画像であれば「影が大きすぎる(ぼやけすぎる)」状態になり、逆に2000ピクセルの高解像度画像であれば「影が小さすぎて見えない」という不格好な結果になってしまったのです。

動的計算の導入:システムに「比率」を教え込む

「人間のデザイナーなら、商品の大きさに合わせて影の落ち具合を自然に調整するはず」。という前提を踏まえ、私たちは、システムにこの「デザインの感覚」を実装することにしました。

固定のピクセル数で影を作るのではなく、AIが切り抜いた「被写体のピクセル数(実際の大きさ)」をプログラムで瞬時に読み取らせるようにしたのです。 そして、その計測したサイズに比例した自然な割合(約1.5%〜2%程度)で、自動的に影のズレ幅やぼかし具合を計算する独自のロジックを組み込みました。

これなら、どんなに大きな画像が来ても、小さな画像が来ても、常に均整の取れた美しいドロップシャドウがかかるようになります。

現場の知見:影の生成フローと重ね合わせの工夫

具体的な処理フローとしては、以下のような手順をプログラム内で瞬時に行っています。

  1. シルエットの抽出: AIから受け取った切り抜き画像の形状(形)だけを抽出し、それを真っ黒に塗りつぶします。
  2. 動的変形: 算出された最適な比率に基づいて、その黒いシルエットの位置を右下にずらし、自然なぼかしを加えます。
  3. 合成: 最後に、元のカラー商品画像を、その影レイヤーの上に1ピクセルの狂いもなく正確に重ね合わせます。

これらの処理を裏側で全自動化することで、まるで最初からスタジオで撮影されたかのような、自然で立体的な商品画像が完成しました。

次のステップへ:プロ仕様へ引き上げる「最後の壁」

被写体のサイズに依存しない動的な影の生成ロジックを組み込んだことで、どんな大きさの商品画像が投入されても、統一感のある高品質な仕上がりが実現できるようになりました。

いよいよシステムは完成かと思われましたが、実運用のテストで様々な商品画像を流し込んだところ、新たな問題が発覚します。 一部の画像において、プログラムで作った綺麗な影とは別に、元の写真に写っていた「リアルな床の影」をAIが被写体の一部だと誤認識して残してしまったり、画像の端に見えない透明なゴミ(ノイズ)が残ってしまっていたのです。

次回(第4回・最終回)は、このAI特有の「切り抜き残し」や「ノイズ」を排除するためのパラメータ調整(アルファ・マッティング)と、現場で使いやすい完全自動化に向けた運用設計の極意について解説します。

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〈筆者プロフィール〉
データサイエンティスト RIN

前職では、出版業界にてECモールの運営や在庫管理などの実務を担当。現在は株式会社久にて、データサイエンティストとして購買データや会員データの加工、分析、モデル構築などに携わる。 本コラムでは、EC現場での実体験とデータサイエンスの知見を掛け合わせ、データ連携や前処理の時短テクニック、AIを活用した業務効率化のノウハウをわかりやすく解説します。