【第7回】自社ECを「ブランドEC旗艦店」に再定義する

ブランドスコア ブランディング

AI時代がもたらした、EC成長モデル転換のタイミング

国内の物販EC市場は約16兆円規模に達し、経済産業省の小売販売統計で公表されているコンビニの約13兆円やスーパーマーケットの約16兆円と肩を並べる規模にまで成長しました。EC販売は、身近で便利な販売チャネルという側面から生活に溶け込み、今や「なくては不便な社会インフラ」の一つになったと言えます。

しかし、ここ数年は既存の小売市場と同様に市場成長率が鈍化する一方で、販売チャネル間の競争激化や各種コストの上昇により、「売上はある程度伸びても利益が増えない」という課題が顕在化しています。さらに「AIの民主化」が急速に進んだことで、「AIに選ばれるための構造転換」やAIツール活用による業務効率化だけでは、他社との圧倒的な差別化が難しい時代に突入しました。

このようなAIの民主化も含めた大きな転換期において、企業は「商品の売り方」や「顧客との接点」をどのように見直すべきなのか。その大きな示唆となるのが、日本を代表する小売業のトップランナーが打ち出した新たな出店戦略です。

ユニクロの柳井氏が示唆、「売るだけの店」からの脱却

ユニクロを展開するファーストリテイリングが、国内の出店戦略を大きく見直す方針を打ち出しました。以下は、柳井正会長兼社長のインタビューを報じた日本経済新聞の記事の一部です。

『画一的な店舗を大量出店するこれまでの戦略を見直し、出店先を都市部の人口密集地に絞った旗艦店へのシフトを鮮明にする。柳井氏は今後の出店について「全て旗艦店戦略に変える」と表明した』

『店舗は商品を購入する場所からブランドイメージを発信したり、商品のイメージを体験したりする場所に変化しつつある。柳井氏は「商品を売るだけの通常店は増やしても意味がない」と説明した(『日本経済新聞』2026年8月30日付朝刊、1面より一部引用)

このインタビューから読み取れるのは、すでに米国・欧州で成長を牽引している「旗艦店フォーマット」含めて、顧客とブランドの接点であるリアル店舗が、単なる「商品を購入する場所(売るだけの場所)」から、「ブランドイメージを発信・体験する場所」へと役割を変えつつあるというメッセージです。

これは、リアル店舗に限った話ではありません。デジタル接点でモノを販売しているEC店舗においても、全く同じパラダイムシフトが起きていくと予想しています。

自社公式ECをブランドEC旗艦店(ECフラッグシップ店)へ再定義する

これまでECは、「商品を消費者へ直接届ける」という利便性を武器に成長してきました。しかし、前述の通り事業環境が大きく変化する中で、2026年から2027年は、その先の2030年を見据えながら「EC事業の次の姿」を描き直す重要なタイミングです。

株式会社久では、これからのECを単なる「売上を伸ばす場(売る場)」としてではなく、「ブランドEC(自社公式EC)をブランドイメージの発信拠点であり、顧客接点およびファン育成の中心として再配置すること」を提言してきました。

これをユニクロの柳井氏の発言に照らして考えると、自社公式ECを「ブランドEC旗艦店(ECフラッグシップ店)」として再定義し、消費者からもAIからも選ばれ続けるためのさまざまな変革に取り組む必要があると考えています。

ECの成長をユニクロの国内成長戦略になぞらえるならば、この15〜20年は、同じ商品画像や商品説明文をコピー・転用しながら効率的に、自社公式EC、楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング、その他モールやSNS系チャネルへ多店舗展開することで、「チャネル拡大(出店場所の拡大)」による売上成長を追求してきた時代だったと言えます。

今後は、自社公式ECを「ブランドEC旗艦店」として再定義し、ECモール活用とは異なる成長基盤を構築していくことが必要なタイミングになったと言えます。

          【ブランドEC旗艦店を中心にしたEC事業の再定義イメージ】

「ブランドEC旗艦店」として取組むテーマ

前提として重要なのは、短期的な売上確保にとどまらず、中長期でのブランド形成と顧客関係の強化を経営の軸に据えることです。

ブランドECを中心に、ECモール、SNS、リアル店舗、ライブコマースなどの周辺チャネルを有機的に連携させることで、単発の購買ではなく、顧客とのつながりを「資産」として蓄積していく構造へ移行する必要があります。

その結果として、今後も定期的に起こるさまざまな環境変化に左右されない持続的な売上成長を実現する基盤が構築されます。以下に、「ブランドEC旗艦店」へ移行していく過程で取り組むべきテーマを記載しますので、参考にしてください。

■ 2027年に向けて取り組むEC経営テーマ

  • ECモールの売上比率を下げる(=自社公式EC比率を高める)
  • システム基盤を見直す(=EC店舗の設計変更・リプレイス)
  • 独自商品・独自サービスを開発する(=自社公式EC限定で提供)
  • ストーリーやコンテンツを再整備する(=AIに選ばれる構造へ転換)
  • 購入後体験を再設計する(=感動・発信・共有につながる工夫)
  • インフラコストを見直す(=システム利用料、倉庫・配送関連費用など)
  • データ統合・蓄積基盤を整備する(=顧客データの連携・統合を完了する)
  • サイト分析や評価基準を見直す(=ブランドスコアを活用する)

 など

AI活用が急速に進む中、自社独自の顧客データやマーケティングデータを保有・蓄積し、多様化する顧客接点をデータで捉えながら「ブランドロイヤリティ」を高めていく取り組みが不可欠です。それが将来的な競争優位性の源泉にもなります。

AI民主化が加速した歴史的1年となっている2026年も後半に差し掛かっています。2027年に向けて、EC運営の中心を「ブランド公式EC(ブランドEC旗艦店)」モデルへ移行させ、あらゆるデータを統合・蓄積できる基盤をつくることを急いでいただきたいです。その基盤をベースに、当社が提供するEC評価指標「ブランドスコア」を実装することで、ECサイトを中心としたブランド価値・ファンとの関係性が可視化でき、ブランドEC旗艦店の継続的な成長基盤が整うことになります。

■筆者プロフィール
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
立川 哲夫(たつかわ てつお)

ECマーケティング×企業経営に精通したスペシャリスト
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。多様な業界・企業規模における経営課題を整理し、ビジネスモデルの構築、戦略立案、実行支援に携わる。特に、EC・O2O・デジタルマーケティング領域での専門性が高く、EC事業を起点にして企業のビジネス拡大を実現。

大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部として新規事業開発や事業拡大に従事し、企業のブランディングやマーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わり、企業変革期における業務推進や社内体制整備、人材育成にも関与し、総合的な経営支援スキルを磨く。5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。 その他、日経主催の講演会・ECセミナー講師、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などへの寄稿実績も多数。