「使ってくれない」を防ぐ|取引先のBtoB EC利用率を上げる仕組み作り

受発注DX BtoB EC

「BtoB ECを立ち上げたのに、取引先が使ってくれない」——受発注DXで最も多い相談の一つです。システムは動いている。案内も出した。それでも注文は電話とFAXで届き続ける。

ここまで本カテゴリでは、業務の設計や連携の重要性をお伝えしてきました。今回はその先、「作った後」の話です。結論から言えば、受発注DXの投資は作った時点では1円も回収されていません。取引先が使い始めて、はじめて回収が始まります。

投資が回収されるのは「使われた時」から

受発注システムへの投資は、稼働した瞬間に成果が出るものではありません。取引先の半分が使ってくれれば、受注処理の手間はおおよそ半分になります。逆に1割しか使わなければ、削減効果も1割にとどまり、むしろ電話・FAXとWebの二重運用で現場の負担が増えることさえあります。

つまり、利用率がそのまま投資回収率になるということです。にもかかわらず、多くのプロジェクトでは構築の予算と体制には力を入れる一方、「使ってもらうため」の計画が抜け落ちています。ここが投資の分かれ目です。

なぜ取引先は、新しい発注方法を使わないのか

まず理解しておきたいのは、取引先には「新しい方法に変える理由」が特にない、ということです。これまで電話やFAXで発注が通っていたのなら、それで困っていません。むしろ、新しい画面を覚え、IDを管理する手間が増えるように見えます。

さらに、発注する担当者の立場に立つと失敗のリスクもあります。「操作を間違えて誤発注したらどうしよう」「よく分からないまま送信して、納期がずれたら困る」。慣れた方法を続けるのは、担当者にとって合理的な判断なのです。

この構造を理解せずに「案内したのに使わない」と受け止めてしまうと、打ち手を誤ります。必要なのは、相手の手間と不安を、こちらが先回りして取り除くことです。

移行の手間は、自社が引き受ける

最も効果があるのは、取引先にかかる初期の手間を自社が肩代わりすることです。

たとえば「このサイトから新規登録してください」という案内は、利用率を下げる典型例です。企業情報を入力し、担当者を登録し、価格の設定を待つ——この一連の作業は、取引先にとって面倒でしかありません。代わりに、こちらであらかじめアカウントと価格情報を用意し、「パスワードを設定するだけで、すぐ使えます」という状態にして渡す。

この一手間の差で、初回ログインの数は大きく変わります。あわせて、既存の商談や電話のついでに、営業が使い方を伝えることも重要です。マニュアルを送るだけでなく、最初の1回を一緒に操作してもらうのが最も確実です。

BtoB ECの利用率は「KPI」で管理する

定着を根性論にしないために、数字で管理します。導入初期に見るべきは売上総額ではありません。次の躓いたときの3つです。

見るべき指標何が分かるかつまずいた時の打ち手
初回ログイン率案内が届き、入口を通れたか未ログイン先へ営業が個別に連絡
Web発注比率実際に発注手段が移行したか一度使って離脱した先に理由を確認
電話・FAXの残存件数どの取引先が戻っているか残存の多い先を特定し重点フォロー

大切なのは、全体の平均値を眺めるのではなく、取引先ごとに見ることです。「A社はまだ一度もログインしていない」「B社は最初だけ使って戻っている」——ここまで分かれば、営業が誰に何を伝えるべきかがはっきりします。定着とは、この一社ずつの積み上げにほかなりません。

定着は、担当者ではなく仕組みでつくる

最後に押さえておきたい点として、定着活動を担当者の熱意に任せないことです。導入直後は現場も張り切りますが、数か月経つと通常業務に押され、フォローは止まります。そこで利用率の伸びも止まります。

そうならないよう、月次で利用率を確認する場を業務に組み込み、誰が未利用先に連絡するかを決めておく。説明会やマニュアルの整備も、片手間ではなく担当と期限を決めて進める。弊社が支援の中で、取引先向けの説明会や未ログイン先へのフォローまで伴走しているのも、この工程が成果を左右すると分かっているからです。

BtoB ECは、作って終わりではありません。取引先に使われてはじめて、投資は回収され、業務は本当に軽くなります。まずは自社の受発注のうち、何割がWebに移っているかを確認してみてください。その数字が、次にやるべきことを教えてくれます。

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〈筆者プロフィール〉
ECコンサルタント K.H

大阪大学を卒業後、新卒でゲーム会社にプランナーとして入社。2023年に株式会社久へジョインし、データアナリストとしてキャリアをスタート。現在はECコンサルタントとして、データドリブンなアプローチを武器に、クライアントの自社公式ECサイトを中心に分析から改善・効果検証まで一貫して支援。2026年より「ブランドEC成長支援室」を兼務し、伴走型コンサルタントとして日々の試行錯誤を重ねながら奮闘中。
プライベートでは茶道表千家講師の顔を持つ一方、アマチュアキックボクシングで心身を鍛える一面も。