ここまでのコラムでは、受発注のデジタル化をどう進めるかをお伝えしてきました。今回からは、その先の話に移ります。受発注が整った会社が次に取り組むべきは、BtoBの売上をどう伸ばすか。
実はその最短距離は、新規開拓ではなく既存取引先の中にあります。本稿では、取引先における自社の「発注シェア」を上げるための考え方と打ち手を整理します。
BtoBの売上は「取引先数×シェア」で決まる
BtoBの売上を分解すると、単純な掛け算になります。取引先の数と、その取引先の仕入れのうち自社が占める割合です。
売上を伸ばそうとするとき、多くの会社は前者——取引先の数——を増やそうとします。しかしBtoBでは、後者のシェアを上げるほうが、実は確度が高いです。すでに取引があり、与信も通り、商品も評価されている相手だからです。新規の一社を口説く労力と、既存の一社でシェアを1割上げる労力を比べれば、後者のほうが小さいことが多いのです。
にもかかわらず、シェアを意識している会社は意外と少ないかもしれません。「あの取引先には年間いくら売っている」は把握していても、「その取引先が同じ商材を年間いくら仕入れているか」までは分からない。分母が見えていないので、伸ばせる余地にも気づけません。

打ち手① 発注の“起点”を握る
シェアを上げる最初の打ち手は、発注の起点を握ることです。
BtoBの発注は、多くの場合「思い出した相手」に出されます。在庫が切れかけたとき、担当者が最初に思い浮かべた仕入先。あるいは、発注しやすい相手です。ここに競合との差が生まれます。
Web発注の仕組みを持つ意味は、実はここにあります。取引先の発注画面に自社が常駐する——過去の注文履歴が残り、数クリックで再発注できる状態は、「思い出す」手間そのものを省きます。電話やFAXで他社に注文するより、慣れた画面で自社に発注するほうが早い。この小さな差が、日々の発注のたびに積み上がります。
さらに、定期的に発注される商材であれば、次の発注時期に合わせて案内を出すこともできます。発注のタイミングを先に押さえるという意味で、これも起点を握る打ち手です。
打ち手② 入り口として定番品を押さえる
次の打ち手は、商材の選び方です。シェアを上げるには、まず定番品を押さえることが基本になります。
取引先が毎月必ず使う消耗品や部材は、発注が繰り返されます。ここを自社から仕入れる習慣ができれば、取引の土台が安定します。逆に、単価が高くても発注頻度の低い商材ばかりだと、取引の接点が少なく、関係も薄いままです。
見落とされがちなのは、定番品は利益率が低いから後回しという判断です。個々の粗利は薄くとも、発注のたびに接点が生まれ、他の商材の相談も入ってくる。定番品は、それ自体の利益より“取引の入り口”としての価値で評価すべき商材です。
打ち手③ 単品から「まとめ買い」へ広げる
3つめは、発注の幅を広げる打ち手です。取引先が自社から仕入れているのが1品目だけなら、シェアは限られます。関連する商材まで併せて発注してもらえれば、同じ取引先からの売上は伸びます。
ここで効くのは、取引先にとっての手間の削減です。複数の仕入先に分けて発注すると、それぞれに注文し、納品も別々に届き、請求も分かれます。まとめられるなら、そのほうが楽なのです。「この商材もうちで扱っています」という情報提供が、相手にとっての利便性の提案になります。
そのためには、自社が扱っている商材の全体像が取引先に見えている必要があります。カタログや営業からの案内だけでは、担当者が把握しきれません。発注画面上で関連商材が見える状態は、それ自体がまとめ買いを促す仕組みになります。
シェアを上げると、価格競争から抜けられる
最後に、シェアを上げることによる本当の効果に触れておきます。
| シェアが低い状態 | シェアが高い状態 |
|---|---|
| 価格で比較され、都度検討される | 発注が習慣になり、比較されにくい |
| 取引が細く、関係が浅い | 相談が入り、情報が集まる |
| 競合の値下げで簡単に切り替わる | 切り替えの手間が大きく、守りやすい |
| 売上が読みにくい | 発注周期が安定し、計画が立つ |
シェアが低いままだと、取引は常に価格で判断されます。しかしシェアが上がり、発注が習慣として定着すると、価格以外の理由で選ばれる関係に変わります。切り替えるほうが面倒だから、という理由も含めて。BtoBではこれが強い参入障壁になります。
まずは主要な取引先を5社ほど選び、それぞれについて「自社の年間売上」と「その取引先が同じ商材に使っている年間予算の見立て」を並べてみてください。分母が見えた瞬間に、どこに伸びしろがあるかが分かります。次回は、その取引先のさらに先——誰が実際に使っているのかを可視化する話を取り上げます。
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〈筆者プロフィール〉
ECコンサルタント K.H
大阪大学を卒業後、新卒でゲーム会社にプランナーとして入社。2023年に株式会社久へジョインし、データアナリストとしてキャリアをスタート。現在はECコンサルタントとして、データドリブンなアプローチを武器に、クライアントの自社公式ECサイトを中心に分析から改善・効果検証まで一貫して支援。2026年より「ブランドEC成長支援室」を兼務し、伴走型コンサルタントとして日々の試行錯誤を重ねながら奮闘中。
プライベートでは茶道表千家講師の顔を持つ一方、アマチュアキックボクシングで心身を鍛える一面も。