長年FAXの取引先をどう動かす?移行を止める「心理的ハードル」の外し方

受発注DX BtoB EC

コラム『「使ってくれない」を防ぐ|取引先のBtoB EC利用率を上げる仕組み作り』にて、受発注DXの投資は取引先に使われて初めて回収が始まるとお伝えしました。

では、長年FAXで発注してきた取引先には、どう動いてもらえばよいのか。ここで多くの企業がつまずきます。案内を出し、マニュアルを配り、それでも注文はFAXで届く。「抵抗されている」と感じるかもしれません。しかし相手の側に立つと、動かないのには理由があります。

今回は、その理由を解きほぐし、取引先ごとに動かし方を変えるという考え方を整理します。

「FAXの方が楽」の裏にある、3つのハードル

「FAXの方が楽だ」という言葉は、多くの場合その通りです。ただ、その一言の中には、性質の異なる3つのハードルが混ざっています。

1つめは、慣れの問題です。
長年繰り返した手順は、考えなくても手が動きます。新しい画面では、同じ注文に何倍も時間がかかるように感じます。

2つめは、失敗への不安です。
「操作を間違えて誤発注したらどうしよう」「送信できたか分からないまま、納期がずれたら困る」。発注は業務であり、担当者にとってミスは避けたいものです。

3つめは、社内事情です。
担当者がWebで発注したくても、社内の承認が紙の注文書ベースだったり、複数人で発注を回していてIDの扱いが決まらなかったりする。これは相手企業の中の問題なので、こちらからは見えません。

重要なのは、この3つで打ち手がまったく違うことです。慣れの問題なら操作を一緒に体験してもらう、不安なら確認の仕組みを見せる、社内事情なら相手企業の担当者と一緒に整理する。「使ってください」と繰り返すだけでは、どれも解けません。

取引先は一律ではない。4つのタイプに分けて考える

もう一つ大切なのが、取引先を一律に扱わないことです。全社に同じ案内を送って反応を待つやり方では、動く先だけが動き、あとは変わりません。そこで、取引先を次の4タイプに分けてアプローチすることをおすすめします。

タイプ状態効く打ち手
① 協力的新しい方法に前向き。関係も良好最初に声をかけ、成功例をつくる
② 様子見反対はしないが、動く理由がない相手の利点を具体化し、一緒に初回操作
③ 不安型操作ミス・確認できない不安が強い確認画面・履歴の見え方を実演。失敗しても戻せると示す
④ 事情あり社内承認や体制で動けない相手企業の担当者と、運用の落としどころを個別に相談

この分類は、営業が普段の感触で十分に振り分けられると思います。大切なのは、分けたうえで打ち手を変えることです。

最初に動かすべきは、どの取引先か

順番も成果を左右します。取引の大きい順に攻めたくなりますが、最初に選ぶべきは①の協力的な取引先です。理由は2つあります。

1つは、こちら側の学習です。
最初の数社で、つまずく画面や説明の不足が必ず見つかります。それを直してから広げれば、後続の取引先はより滑らかに移行できます。

もう1つは、社内外への説得材料です。
「他社はもうWebで発注している」という事実は、様子見の取引先にも、慎重な自社の営業にも効きます。

逆に、いきなり全社へ一斉案内を出すと、準備が整わないまま問い合わせが殺到し、対応しきれずに「やはり不便だ」という印象だけが残ります。小さく始めるのは、システムだけでなく移行も同じです。

どうしても動かない取引先とどう向き合うか

率直に言えば、すべての取引先が移行するわけではありません。相手の体制や規模によっては、当面FAXが続くこともあります。ここで無理を通すと、取引そのものを傷つけかねません。

現実的な着地は、全社一律ではなく、比率で考えることです。まず定型的な注文の多い取引先から移し、全体の受注のうち何割がWebに移ったかで進捗を測る。残った分は、AI-OCRなどで社内側の負担を下げる方法もあります。

相手を変えられないなら、自社側の受け方を工夫する——この二段構えが、現場では最も無理がありません。

移行は「お願い」ではなく「設計」で進める

取引先の移行は、営業のお願いや熱意だけに委ねるとうまくいきません。誰が、どのタイプの取引先に、いつ、何を伝えるのか。そこまで決めて初めて、移行は計画になります。

弊社が支援の中で、取引先向けの説明会やマニュアル作成、未利用先へのフォローまで担っているのも、この工程が成果を分けると分かっているからです。相手には相手の事情があります。それを前提に設計できるかどうかが、定着の分かれ目です。

まずは、自社の取引先を4つのタイプに振り分けてみてください。全体を眺めていたときには見えなかった「次に声をかけるべき一社」が、はっきりするはずです。

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〈筆者プロフィール〉
ECコンサルタント K.H

大阪大学を卒業後、新卒でゲーム会社にプランナーとして入社。2023年に株式会社久へジョインし、データアナリストとしてキャリアをスタート。現在はECコンサルタントとして、データドリブンなアプローチを武器に、クライアントの自社公式ECサイトを中心に分析から改善・効果検証まで一貫して支援。2026年より「ブランドEC成長支援室」を兼務し、伴走型コンサルタントとして日々の試行錯誤を重ねながら奮闘中。
プライベートでは茶道表千家講師の顔を持つ一方、アマチュアキックボクシングで心身を鍛える一面も。